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RMT問題は「どろ沼」状態――AOGC 2007講演に見るRMTの現在

2007年02月24日 04時48分更新

文● 編集部 小西利明

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22日から開催された“アジアオンラインゲームカンファレンス2007東京”(以下AOGC 2007)の2日目は、“ビジネス&ディベロップメントDay”と題して、オンラインゲームのビジネス面の講演や、オンラインゲームの社会的な側面からの講演が多数行なわれた。本稿ではオンラインゲーム、特にMMORPG(大規模マルチプレイヤーオンラインゲーム)において大きな問題となっているRMT(Real Money Trade)の現状についての講演について取り上げたい。なおRMTとは何かについては、文末のコラムを参照していただきたい。

IGDA日本 代表の新清士氏

IGDA日本 代表の新清士氏

“RMT取引の現在 ~北米、韓国の最新事情を中心に”と題した講演を担当したのは、ゲーム開発者団体“IGDA日本”(International Game Developers Association Japan)代表の新清士(しん きよし)氏。新氏は冒頭で、RMTにまつわる現状を「泥沼」と表したが、まさにそうとしか表現しようのない現状が語られることとなった。

新氏はまず“なぜ泥沼な状況なのか”についてを、「最終的にはインターネット上の法的な(権利の)問題に行き着く」ためと述べ、単にオンラインゲームだけの議論では成り立たないためであるとした。また本質的な問題が“ゲームの付加価値はどこから発生するのか?”にあるとして、ユーザーにとっての付加価値はプレイの積み重ねが反映されるセーブデータにあると定義。そのデータがユーザー間で交換可能になった時点で、RMTはどうしても発生してしまい、これを抑えるのは非常に難しいとした。つまり、価値がある(と人が認める)ものが交換可能になれば、そこに経済的な取引が発生するのは必然であるということだ。

そこでデータの交換(とRMT)が発生した時に問題となるのは、(オンラインゲーム上の)“データの所有権は誰が持つのか”と、“データに財産権を認めてよいのか”(バーチャル財の財産権)にあるとした。新氏はこの問題についての各国の状況を調べたものの、どこも決着はついていないとした。しかも、日本ではこの問題についての法律論争さえ行なわれていないと述べ、懸念を示した。

新氏は黎明期から現在に至るまでのRMT発展の経緯について触れた。ここでは省略するが、ユーザー側のゲームデータに対する意識の変化(財産的価値の発生)、オークションサイトによる取引手段の登場などを説明。RMTを事業として手がける業者が続々と登場した理由のひとつに、MMORPG先進国と言われた韓国で、バーチャル財産権には踏み込まずにRMT取引そのものは合法であるとの判例が出た事件を挙げた。また、日本で運営されるゲームに中国のRMT事業者が入り込むといった、RMT事業者が国境を越える広がりを見せている現状に対して、それに対する国際的なルールは存在しないし作れない、といったインターネットならではの問題点を抱えている実情を示した。

新氏は現在のRMT市場のように、取引実態や正確な市場規模さえ誰も知らない、アンダーグラウンドな経済として展開されるRMTについては否定的な立場である。しかしRMTを技術面、あるいは法制面で“禁止する”ことについては疑問、あるいは否定的な見方を示している。まず技術的に阻止するのはほとんど困難であるうえ、RMTの形態や定義が短期間で大きく変動し続けており、今のRMTを対象に法規制を行なっても意味がないという理由からだ。また、ゲーム運営会社がビジネスの一環として行なっている、“運営会社→ユーザー”間のRMTとも呼べる“アイテム課金”についても、バーチャル財産権の観点は保留のままであるほか、ユーザーがコンテンツを作れる『Second Life』のような存在の登場もあり、バーチャル財産権の問題は積み残されているとしている。

RMTに関する法規制関連の動きとして、新氏は米国と韓国の最新事情を紹介した。まず米国の事例として、2006年10月に可決された“オンラインギャンブル法”が取り上げられた。本来はオンラインでのギャンブルに対する規制法であるが、解釈によっては他のオンラインゲームでのRMTも対象となりうるという。他にもバーチャル経済に対する課税についての議論も行なわれており、米連邦議会で議論も行なわれることになったという。ただし結論が出るのは2008年と、まだ先の話である。

またRMT事業者の実情について、自らRMT事業を手がけた米国のジャーナリストが、その実情を記した書籍『Play Money』を取り上げて、RMT事業者を取り巻く実情についても触れられた。

RMT事業の内幕を描いた『Play Money』のAmazon.co.jpでの販売ページ

RMT事業の内幕を描いた『Play Money』のAmazon.co.jpでの販売ページ

韓国の事例としては、2006年12月に改正された“ゲーム産業振興に関する法律”の中で、RMT行為やBOTなどを禁止した事例が挙げられた。これはアンダーグラウンド化したRMT経済が、犯罪集団の収益源にもなっている点が問題視されたため、法規制がかけられたものだという。しかし抜け道の可能性がすでに指摘されているなど、法規制としての実効性については疑問視する意見もあるとのことだ。

米国では上述の事例のように、さまざまな議論が進められているという。しかし各種法規制が検討・実施される一方で、ゲーム運営会社やコンテンツ事業者側が有利に展開できる著作権を、バーチャル財産権にまで広げるのは問題ではないかという意見もあるという。これはつまり、バーチャル財産権をどう定義するかにかかる問題であるが、今のところ米国や韓国でも(もちろん日本でも)答えの出ていない問題である。

著作権とバーチャル財産権について新氏は、Second Lifeの例を挙げて、新しい取り組みの事例を紹介した。著作権の濫用に警鐘を鳴らしているスタンフォード大学教授のローレンス・レッシグ氏のアイデアによって、Second Lifeではユーザー作成コンテンツ(UGC:User Generated Contents)の著作権をユーザーに帰属させるという規約を定めた結果、魅力的なUGCの登場と新たなビジネスチャンスを創造することになり、現在の成功を収めるに至たったという。またゲーム運営会社がサービスの一環としてRMTの場を提供した『EverQuest II』の事例も触れられた。

しかし新氏はRMTをサービスの一環に取り入れた事例がある一方で、すべてのオンラインゲームに適応できる普遍的な事例ではないことを指摘した。UGCを取り入れたSecond Lifeについても、性的なコンテンツの多さやオンラインカジノの存在など、少なからぬ問題を内包している点も指摘して、法的な議論は今後も続くとした。

UGCを広く認めたゆえの性的コンテンツの氾濫は、あまり語られることのないSecond Lifeの側面のひとつである

UGCを広く認めたゆえの性的コンテンツの氾濫は、あまり語られることのないSecond Lifeの側面のひとつである

結論の出ないテーマではあるが、新氏は途中経過論として、RMTを一律に否定するのは、新規ビジネス創出の面やユーザーの権利という観点から望ましくないとしつつ、アンダーグラウンド経済化している現状では、法的に保護される権利として認められるのは難しいとした。そしてまた、法的な結論が出しにくい現状では、バーチャル財産権の問題に踏み込まないでおく“様子見”の姿勢の方が、日本企業にとっては得策かもしれないと述べた。

その上で、“健全なRMT”が成り立つには、“コントロールされた環境”が必要かもしれないという見解を示し、ハードウェアやソフトウェアを運営会社側のコントロール下に置けて、なおかつユーザー個人を特定する技術基盤も整った家庭用ゲーム機の方が、健全なRMTの成り立つ環境としては有利かもしれないとして、講演を締めくくった。

RMTとは、オンラインゲームの中に存在するアイテムや仮想通貨を、プレイヤー同士が現金(Real Money)で取引(Trade)する行為の総称である。特に『ファイナルファンタジーXI』や『ラグナロクオンライン』、『リネージュ2』のような人気の高いMMORPG内で盛んに行なわれているが、日本国内でサービスされているMMORPGのほぼすべてが、RMTをサービス規約で禁止行為としている。
そのためRMTでの取引は多くの場合、ゲームそのものとは関係ないオンラインオークションサイトや電子掲示板などを介して行なわれている。ゲーム内で行なわれる行為自体は、単なる“金やアイテムの受け渡し”だけなので、ゲーム内でのやり取りだけを見て、なにがしかの行為がRMT行為か否かを判断するのは困難である。そのため規約で禁止はしていても、実際は野放しに近いゲームが多い。
さらに、ユーザーが制作した仮想世界内コンテンツの著作権をユーザーに帰属させたり、仮想世界通貨と現実世界の通貨との交換を認めた“Second Life”の登場と成功によって、RMTを巡る状況は混沌としている。

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