前回に引き続き、2007年のダボス会議で行われたCNNのセッション“CNN Connects: Our Networked World”の様子から、Web2.0時代のジェネレーションギャップやデジタルデバイトの問題、あるいはコンテンツの検閲システムについてどう考えるかといった話題を見ていくことにする。参加したパネリストのプロフィールに関しては前回の記事を参考にしてほしい。
YouTubeで戦争体験を語る70歳の男性
ここで名前が挙がったのは、イギリス在住で70歳のピーターウォーリックさん。ウォーリックさんは、ビデオ交換サイト“YouTube”で“geriatric1927”のIDを持ち、自らの戦争体験や妻を亡くした後の寂しさを語った動画をアップロードしている。これまで200万人以上のビューがあり、サイト上では4番目の人気サイトにもなっているという。
しかし、彼のようにWeb 2.0的なサイトを活用しているお年寄りはまれで、ヨーロッパの65歳以上のうちオンライン利用をしている人たちは17%に過ぎないとCNNアンカーのベッキー・アンダーソンは言う(筆者は“17%という数字”でも、意外に多いと思ったが)。会場に集まった聴衆の75%は「旧世代の人たちは自分たちが取り残されるということをもっと気にするべき」と答えていた。
ニーズがあり、シンプルであれば、誰もが使う
もちろんSNSサイトの利用者の中にもテクノロジーに取り残されてしまった人やWeb 2.0が何のことか分からない人もいる。
これについてどう考えるかという問いかけに、Facebookのズッカーバーグ氏は「自分のペースで追いつけばいいのではないか」と楽観的な構えを示した。携帯プロバイダーOrangeのCEOを務めるアフジャ氏は「鍵となるのは単純さ。使いやすければ多くの人たちが適応できる。現実には、米国では人口の50%が携帯のテキストメッセージを使ったことがない。もっと容易な形でサービスを提供すべきと考えるが、それは、ここにいるパネリストたちの義務ではないか」と話した。
一方、Flickrのフェイク氏は「若い層がマーケットの標的であることは確かだが、旧世代の層にしても、例えば、祖父母がFlickerを使って孫の写真をやりとりするようといった様々なニーズがある」と述べた。
フェイク氏は、ニーズが原動力となっていく好例として、米国で驚異的な視聴率を得ている視聴者参加型の公開オーディション番組『アメリカンアイドル』を挙げた。アメリカンアイドルでは、審査の後半期になると毎週、視聴者からの投票を受け付けている。歌手を目指し予備審査を通った参加者たちがハリウッドのステージでパフォーマンスを行ない、番組放送後に視聴者たちから電話または携帯電話のテキストでの投票を受け付ける。
とにかく大人気の番組だが、この投票をしたいがためにこれまでテキストメッセージを利用したことがなかった人もアクセスするようになったのだという。
一方、若い世代は、こうした情報ツールを、メッセージを残すというよりもコミュニケーションの手段として使っているとフェイク氏は見ている。「私の友人の息子は、夏休みの間、3000マイル離れたガールフレンドと一緒に毎晩、夕食をともにしていたんですよ。ウェブカメラを通してね」。
つながるだけでは、地域格差は埋まらない
地域や生活レベルでの格差はどうか? 西アフリカの農村、ブルキナパソでは、神父がブロードバンド回線を使って、村民へ情報の橋渡しを行なっている。
この村では以前は粉ミルクを使っていたが、今は、無農薬の酪農を行なうようになった。インターネットで情報を得ることで、彼らの生活向上はよりよくなっていくはずだが、実際には酪農をする女性たちの月収は50ドル(約6000円)程度、この村でインターネットをするには毎月60ドル(約7260円)かかるのだという。
10年後にはアフリカ中でインターネットカフェができ、今よりもさらに恩恵を受けられるようになるというが、アフジャ氏は、これに対して「十分ではない」と話す。(こういった地域へのインフラ普及の)「ペースをもっと速めるべきだ。私たちが必要としているのは、草の根レベルの変革である」と異論を唱えた。
アフジャ氏によれば、いまだ中国では10億人、インドでは7億人といった数の人たちはインターネットへのアクセスを行なったことがなく、アフリカの大多数においては電話すらも使ったことがないという。そして、これら発展途上の国々では、携帯電話の接続がひとつのキラーアプリケーションになるのではないかというのである。
ズッカーバーグ氏は「確かにFacebookは世界的な成長を果たしているが、あくまで英語圏での話しだ。地元の言語へのローカライズ化が課題であり、これに現在取り組んでいる」と話した。だが、ロイターのグローサー氏は、「新たなサービスを作り出しているのは、常に高速ブロードバンドの環境下で暮らし、リッチなコンテンツやビデオといった情報に触れることができる人々である。発展途上国の人々が持つ格差を縮めることは容易ではない」と断言する。
リンデン・リサーチのケイパー氏とアフジャ氏は、発展途上国に対するビジネスチャンスに多いに期待をかける。発展途上国のマーケットは先進国のマーケットよりも成長が著しい。アフジャ氏によれば、Orange社では、アフリカ市場における加入者の数は、毎年4割増なのだそうだ。ケイパー氏は「ひとつ心配なのは、発展途上国では、こうしたインターネット技術がエリート層のみの特権になってしまうということ。新たな収入格差が生まれてしまっては、社会的安定にとってもマイナスだ。だからこそ、可能な限り、安く、多くの人に(通信インフラやネット環境などを)提供していくことが重要だ」と述べた。
サービス運営者はユーザーを検閲するべきか
ディスカッションの終盤では、インターネット上の“検閲の問題”に焦点があてられた。
SecondLifeでは、フランスの大統領選に出馬を表明した社会党のロワイヤル元環境相を支持するユーザーと、極右政党・国民戦線のルペン党首を支持するユーザーの間で、バトルが繰り広げられた。最終的に国民戦線はSecond Lifeから撤退した。こうした政治活動や抗議活動など表現の自由はどこまで許されるのか、どう対処されるべきなのだろうか。
中国のSNS“Wangyou.com”は、1000万人が加入する人気SNSサイトである。スタッフたちは、毎日アップロードされる6000枚の動画と4万枚の写真投稿に過度な露出や描写がないかといったチェックを行なっている。また、ユーザからの通告を受け付けており、報告者には報酬が支払われる。中国当局による検閲では、当局がヤフーに対し個人情報の提供を強制し、これによってジャーナリストが国の情報を漏洩した罪で逮捕された。
検閲システムを用意するべきなのかといった問いかけに、会場のオーディエンスたちの意見は真っ二つに割れた。場内アンケートでは、50%ずつが検閲すべき、するべきでないという結果になった。聴衆のひとりは「過剰な規制がかけられるとデジタルデバイト(格差)が悪化するのではないか」と意見を述べた。検閲について、そしてプライバシーの問題について、責任は個人にあるのか、運営者側にあるのかの意見を求められたパネリストたちは次のように答えている。
フェイク氏(Flicker共同創業者) オンラインコミュニティの中では注意が必要である。サイト運営者は、常に何がOKか否かの線引きを判断していかなければならない。サイトの性格によってその判断は異なるだろう。(人が検閲を決断するべきか否かという問題は)結局のところ、世代のギャップという課題に返ると思う。10代の若者はデジタルコミュニケーションをまったくちがった使い方をしている。
アフジャ氏(Orange CEO) (政府の)検閲システムはこれまでも機能してこなかったし、今後も機能しないだろう。これは大きな津波を防ごうというくらい無茶なことだ。中国も時間の問題で、そのうちすべての人があらゆる情報にアクセスできるようになるはずだ
ズッカーバーグ氏(Facebook創設者) Facebook内では、ユーザへ自衛のためのツールを提供している。利用者は、提供したくない情報は提供しなくていいし、共有の制限を設けることもできる。うまく機能していると思う。人々は自分がどんな情報を必要としているかを分かっている
ケイバー氏(リンデン・リサーチ CEO) 以前に比べれば、多くの個人情報がオンラインに掲載されてしまうことになる。そこで、調整や適応といったものが必要となる。10代専用のサイトもある。自分たちを守るための隠れみのにしている人もいる。完璧なシステムではないが冷笑的な見方はしていない。
グローサー氏(ロイター CEO) 活字、放送、そしてウェブサイトとすべてのメディアでは、常に“編集”という責任がある。検閲にはいたらなくても、その日に何を放送すべきかといった決断をしている。では、技術的に検閲が可能かどうかと言えば、答えはNoだ。微妙な検閲を技術がカバーできるとは思っていない。必要な検索用語が禁止され、乳がんの啓蒙サイトへアクセスができなくなってしまったなど惨憺たる状況もある。(細かい部分は)人の手でやるべきと思っている。
セッションを通じて、パネリストが語っていたとことは「Web 2.0時代とは、ウェブ上で意志を持って働きかける個人が恩恵をうける時代である」ということだったのではないだろうか。また、“情報規制”や“個人情報を守る”といった課題解決には、技術だけではなく、人の目、人の手を必要とすることも再認識された。サービス提供者側の努力も必要だが、利用者の意識や判断力も問われているということだろう。
筆者紹介-遠竹智寿子
外資系コンピュータメーカーのマーケティング部、広報部の勤務経験を経てフリーランスとして独立。ITジャーナリストとして調査、記事執筆を手掛ける一方で、企業向けコンテンツ企画やマーケティング調査などを手がける。 また、コミュニケーションスキルやIT・英語教育分野における研究、事業活動も行っている。現在、 月刊asciiに『マインドマップ「超」仕事術]『深化するCSR』を、アスキービジネスに『ビジネスマインドエッセンス』を連載中。
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