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【NET&COM 2007】「日本版SOX法で伝えたいのは『経営者』という主語」――八田進二教授

2007年02月09日 21時45分更新

文● アスキービジネス編集部

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「NET&COM 2007」に併せて開催中の「内部統制ソリューションフォーラム in NET&COM」(主催:日経BP社)。9日は、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・八田進二氏が登壇し、「内部統制実施基準の基本的視点」と題した基調講演を行なった。


「最低限の標準化を指向」、米国SOX法との違いに理解呼びかけ


青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・八田進二氏

青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・八田進二氏

「“内部統制の文書化3点セット”というものの存在を、昨年の秋ごろになって知った」

 ほかでもない、金融庁企業会計審議会委員(内部統制部会部会長)を務める青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・八田進二氏の言葉である。八田氏は知人から「3点セットは必要か」と問われて驚いたという。「金融当局も、『そもそも実施基準案には“文書化"の文字はない。形式ばかりの内部統制議論になっているのではないか?』と明言している」と巷にはびこる「SOX法対策」に警鐘を鳴らす。

 八田氏は、今回の講演の中でこうした金融商品取引法(通称・日本版SOX法)に対する“誤解”を解くことに時間を割いた。それは、「ディクロージャーの精度を上げる」(八田氏)という内部統制の制度そのものが形骸化してしまうことを強く危惧してのことだろう。

 「『内部統制報告制度』という考え方自体は米国404条に倣ったもの」と八田氏は断ったうえで、「『SOX法が上陸した』といわれる度に、何度も違うと言ってきた。米国のSOX法と比べても何の意味もない」と強調する。「書籍などでは『米国のレベルで対応すればカバーできる』と書かれている。だが我々からすれば、『そこまでやらないくていい』。どっちを信じるかは皆さんの良心に任せるしかない」。

 実施基準案における基本的な考え方は、「最低限の標準化を指向したこと」だという。「内部統制の整備は各企業の創意工夫を尊重したうえで、具体的な指針を示した。思い切って数字の例示もいくつか入れた。これはひとつの合理的な基準であり、コスト効率のいいものを実装してほしい」と八田氏は語る。中でも「ITへの対応」については、全体の7分の1の分量を割いた点を挙げ、「ほとんど言いたいことは中に盛り込んでいる。まずはしっかり基準案を読んでほしい」と訴えた。

 八田氏が例示した“日本型内部統制”の特徴のひとつは、監査の対象が経営者が作成した評価結果のみであり、内部統制監査と財務諸表監査が一体で実施されること。つまり、同一の監査法人が財務の監査と内部統制の監査を同時に行ない、監査人が作成して報告する「内部統制監査報告書」も、従来からの財務諸表監査の財務報告書に合わせて記載することとなる。

 これに対して、米国SOX法では、監査人が経営者とは別に内部統制の有効性についての意見を表明する「ダイレクトレポーティング」を採用しており、「SOX法対策にはコストがかかる」と言われる要因のひとつになっていた。

 八田氏は「こうした点で、幸いにも後発組の優位性がある」としたうえで、「(現在米国で公表されている)SOX法の緩和案を見てもサプライズはまったくなかった。むしろ日本の基準案を読んでいるような気がする」と日本基準に自信を示した。

 こうした日本型の特性を踏まえたうえで、「企業のトップに会っているが、日本の内部統制を理解している人は極めて少ない」と八田氏は経営者に積極的な理解を求める。「コンサル会社に丸投げする企業もあると聞く。だが、当局は『コンサルに丸投げした場合にはどうなるのか?』との問いに、『その行為自体が内部統制が構築されていないと見なす』と答えた」というエピソードも披露。経営者の自覚を強く促した。

 最後に八田氏は、「実施基準で一番伝えたいのは、『経営者』という主語。業務改革のチャンスとして、ポジティブな議論をして取り組んでいただきたい」と会場に駆けつけた経営者らにメッセージを贈った。

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