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“DRM不要論”は一種の牽制?――ジョブズ発言の真意を探る

2007年02月09日 22時00分更新

文● 編集部

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 米アップル社が同社CEOのスティーブ・ジョブズ氏の名前で発表した“Thoughts on Music”(音楽に関するいくつかの考察)という書面が話題を呼んでいる(参考記事)。ジョブズはなぜこのタイミングで、このコメントを出す必要があったのだろうか? 音楽配信ビジネスに詳しい津田大介氏にその理由をうかがった。

──なぜジョブズはこのような発言をする必要があったのか?

 ひとつの要因には、欧州対策があると思う。米国ではiPodとiTunesのエコシステムが大成功を収めているが、その一方で欧州ではアップルのDRMに対する風当たりが強くなってきている。

 昨年は、フランスでDRMの公開を盛り込んだ法案が提出されたり、ノルウェーの消費者団体が「iPod以外で聴けないDRMがかかったiTunes Storeのコンテンツは違法」と主張するような出来事が起こった。こうした風当たりの強さに加えて、欧州ではiTunse Storeが米国ほどの成功が収められていないということも背景にあるのではないか。

 しかし根本的な話をしてしまえば、もともとDRMは完全にレコード会社側の都合でコンテンツに適用されているもの。アップルにしてみれば、レコード会社の要請があったからDRMを付けてるだけで「そもそもDRMなんてやりたくなかった」ということが本音としてはあるだろう。

 iTunes 4が公開されたとき、グローバルIP越しに自分の音楽ファイルをストリーミングで公開できるという機能が搭載されていた。結果的にこの機能はすぐにレコード会社の要請により削除されたが。徹底的にユーザー志向のサービスを提供することで成功したアップルにとって、過剰なDRMは余計なものでしかない。

 ただ、アップルもまったく実績がない状況でiTunes Storeをビジネスとして立ち上げる必要があり、その点は自らリスクとコストをかけてレコード会社に合わせて制作や運営のコストをかけてきた。それなのに今さらうちだけが矢面に立たされるのかという思いはあるだろう。今回の発言は、そんな“切れ気味”な印象も受ける。


──ジョブズは“DRMフリー”を提案しているが、それはアップルにとって逆風にならないのか?

 米国の音楽業界においては、iPodとiTunesのエコシステムが不動の地位を築いている。アップルにしてみれば、今DRMを外して、フラットな状態で勝負しても問題ないと見ているのだろう。

 このエコシステムに自信があるからこそ、すべての配信サービスのコンテンツがどのプレーヤーでも再生できるようになれば、逆に他社のユーザーを奪うことができると見込んでいるのではないか。


──DRMフリーの配信サービスは、レコード会社からコンテンツが集まりにくいという印象がある。欧州で成功した配信サービスはあるのか?

 例えば英国では、レコード会社のWarpが運営する“Bleep”というDRMフリーのMP3配信サービスがある。2004年頃からスタートしたもので、欧州では、インディーズ音楽配信のスタンダードとして認知されている。

 スティーブ・ジョブズの発言を引くまでもなく、デジタルコンテンツサービスにおいてDRMというものは本質的に不要なものだ。あまり話題になることはないが、Bleepが地に足を付けた成功をしているというのは、ある種それを証明している。

津田大介

インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するライター/ITジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。音楽配信関連の話題を扱うウェブサイト“音楽配信メモ”(http://xtc.bz/)の管理人としても知られる。


(記事担当者から)
なお、デジタル音楽におけるDRMの不要論ということは『デジタル音楽の行方』(David Kusek, Gerd Leonhard著、翔泳社刊)という本で詳しく語られている。今回のジョブズ発言の真意をより深く知りたい人は、この本を読むことをお勧めしたい。

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