プログラマーのマッチングサービス
新しいサービスのアイデアを思いついたが、あなたにはプログラミングの知識と経験がなく、実現する術がない。エンジニアの知り合いからアドバイスをもらうことはできても「一緒に新規事業を始めよう」とまでは踏み込めない。かといって、自らエンジニアを雇う資金もないし、それにあたっての融資を受けられる自信もない。
夢をあきらめるしかないのだろうか?
これを解決するのが、今回のテーマとなる“On Demand Workforce”──プロジェクト単位でのオンデマンドの労働力だ。
正式の呼称はなく“Remote Workforce”(遠隔労働力)や“Freelance Marketplace”(フリーランス市場)、仕事オークションといったさまざまな呼び名があり、サービス自体もいくつか存在している。米国ではこうしたサービスを使うことで、企業や新規プロジェクトを立ち上げる際の敷居がさらに低くなり始めている。
サービスの流れを簡単に説明すると、まず、あなたは求めているプログラミング能力(サーバープログラミング、3Dプログラミングなど)や労働時間(週何時間労働か)、製品の納期はいつかなどの条件を提示する。
すると、それを見たエンジニアの側から、自分はどういう経験を持ち、どれくらいの料金で仕事を引き受けられる、といった入札がある。
雇い主は応募者を吟味して、仕事をお願いする人物を選び、ソフトを作ってもらう。仕事の頻度もさまざまで、1回限りの仕事で終わることもあれば、継続的にメンテナンスやバージョンアップを頼むケースもある。
すべて最初の交わす条件次第だが、ほとんどの場合、作成されたソフトの著作権などは発注した側に譲渡される。
仕事オークションの草分け的存在は“Elance”
この手のサービスの草分け的存在は“Elance”だろう。
日本で“Yahoo! オークション”が始まったのと同じ1999年創業で、それから1~2年の間に、それなりに注目を集めるサービスに成長していった。筆者も2001年に“関心空間”というサイトで、このサービスを紹介したことがある。
Elanceでは、特に職種は選ばず、例えば、翻訳やテープ起こし、ロゴの作成、Webデザインから、さらに経営よりのビジネス計画や競合分析、マーケティングプラン、会計といった仕事までもオークションにかけることができた。
歴史を重ね、利用者の経験の蓄積が貯まっていくと、“仕事のオークション”という形態が一番うまく機能するのは、ソフトウェア開発の分野だということが明らかになってきた。
こうして同社には、いくつかのライバルが登場するようになる。最も有名なのは2001年スタートの“Rent-A-Coder”(レンタルプログラマ)」というサービスだ。
しかし、この手のサービスが認知されるのと同時に、顕在化してきた問題もある。インターネット経由の外注仕事における“信頼性”だ。
雇用者は、働き手に自分の会社に来てもらっているわけではないので、相手がきちんと仕事をしているのか、それともさぼっているのかどうかを細かくチェックできない。進捗があるごとに、プログラムコードをもらって確認する方法もあるが、何か大きな漠然とした不安が残る。
バーチャルな信頼づくりに挑む“oDesk”
実は最近、こうした不安に初めて本格的に取り組んだという理由で、“oDesk”というサービスが大きな注目を集めている。
今年創業の同社は、Web 2.0時代の労働力オークションサービスとして脚光を浴び、11月にサンフランシスコで開かれた米オライリー・メディア(O'Reilly Media)社主催の“Web2.0 SUMMIT”にも登場し、利用者の統計なども発表している。
oDesk社が就労状況の確認手段として用意した“秘密兵器”が、ウェブカメラとスクリーンショット機能。雇用したプログラマーが仕事をしている様子を、ライブカメラに映った顔写真と画面キャプチャーで確認できる。つまり、雇用したプログラマーがお金だけとってサボっているといったことは起こりえないのだ。
同社のうたい文句は“On Demand Global Workforce”(世界規模のオンデマンドな労働力)で、現在、利用者は世界中に散らばっている。登録プログラマーはインドやロシア人が多く、そのため比較的安い対価で雇うことができる。
一方、雇用者は、米英など英語圏の会社や個人が多い。言葉の壁が問題なのか、それとも信頼を重んずる文化を反映したものなのか、日本人はプログラマーの側にも、雇用者の側にもほとんどいないようだ。
oDeskの仕組みも完璧ではなく、就労状況が把握できても、プログラマーのモチベーションや、作成されるプログラムの品質までは推し量ることができない。
とはいえ、このあたりは雇用したプログラマーへのインセンティブや、仕事の発注の仕方などでもある程度、工夫ができそうなところでもある。
インターネットを通して、世界が狭くなっていく時代、日本でも今後、こうしたサービスの利用が広がるはずだ。
「いや~、このサービス、実はインド人プログラマーにつくってもらってね……」
今後はまったくドメスティックに見えた企業の経営者からも、こんな言葉を聞く機会が増えてくるのかもしれない。
筆者紹介-林信行
フリーランスITジャーナリスト。ITビジネス動向から工業デザイン、インタラクションデザインなど多彩な分野の記事を執筆。『MACPOWER』『MacPeople』のアドバイザーを経て、現在、日本および海外の媒体にて記事を執筆中。マイクロソフト(株)の公式サイトで執筆中の連載“Apple's Eye”で有名。自身のブログ“nobilog2”も更新中。オーウェン・リンツメイヤーとの共著で(株)アスペクト刊の『アップルコンフィデンシャル(上)(下)』も発売中。
(ASCII24:2006年12月8日の記事を転載)
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