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YouTubeは違法? 合法?――TMI総合法律事務所、Web2.0時代の著作権問題を語る

2006年11月27日 00時00分更新

文● アスキービジネス編集部

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TMI総合法律事務所は、11月24日、「Web新時代のビジネスにおける著作権問題」と題したプレス向けセミナーを開催した。YouTubeなどの動画共有サイトの問題を中心に、弁護士の五十嵐敦氏が最新の著作権問題について語った。

TMI総合法律事務所 五十嵐 敦弁護士

TMI総合法律事務所 五十嵐 敦弁護士

  ユーザー自らが情報を発信するCGMの流れが加速するにつれて、インターネット上の著作権をめぐる問題は複雑性を増している。中でもホットなのが、動画共有サイト「YouTube」の著作権問題だろう。YouTubeは一般ユーザーが動画を簡単にアップロードできるサイトとして高い人気を誇っているが、一方でテレビ番組など、著作権侵害の恐れのある動画ファイルも多数無断公開されているのが実態だ。米ニューヨーク州と日本で弁護士資格を持ち、ネット企業のアドバイザーも務める五十嵐敦弁護士はこうした状況を踏まえ、「現在のYouTubeは、合法ビジネスか違法ビジネスか分かりにくい状況にある」と話す。

「削除申請への迅速な対応」がカギ

 五十嵐氏はまず、「テレビ番組も著作物である以上、権利者の許諾が大原則」とし、インターネット配信は著作権法の定める自動公衆送信権にあたり、著作権者の許諾が必要と説明。著作権法では私的使用が認められているものの、あくまでもその範囲は個人や家庭内での複製であり、「(動画共有サイトのように)誰もが見られるようにしているのは私的利用に当たらない」と、権利者以外が動画をアップロードする行為は違法とした。

 続いて、YouTubeのような動画共有サイトを運営する事業者の責任について、「違法性を明示してあるような、いわゆる“裏サイト”は当然違法」と断ったうえで、運営者の責任範囲を定めた米国デジタルミレニアム著作権法(DMCA)を解説。DMCAには、権利侵害を運営者が知らない場合や、権利侵害によって運営者が直接的な利益を得ていない場合、権利者からの削除申請に対して迅速に応じた場合などを免責規定(512条)としており、これに該当する限り運営者は法的責任を問われないという。

 YouTubeは利用規約で著作権侵害行為を禁じており、規約違反を繰り返すユーザーに対してはアクセスを遮断すると強い姿勢で臨むことを明記。「実際には違法ファイルが散在し、規約と現実の乖離が見られる」(五十嵐氏)ものの、権利者からの削除依頼にも今のところ迅速に対応しているため、少なくとも現時点においては法的な責任を問われる可能性は少ないようだ。

 ただし、512条では削除依頼に対して“迅速に”対応することを求めていることから、「YouTubeが、今後増加する削除依頼に対して実際に迅速に対応できるかが1つの論点になる」と五十嵐は見ている。加えて、「市場に対するインパクトが今後の法判断の基準になるだろう」(五十嵐氏)と指摘。米ナップスターの裁判では、違法なファイル共有がCDの売上へ与える影響が問題となったことから、今後、YouTubeが与える市場へのインパクトがどう判断されるていくかが注目されるとしている。

 なお、日本では512条に相当するものとして、プロバイダ責任制限法があるが、運営者が権利侵害の主体となっている場合には責任を問えることとなっている。“著作権侵害の場”を提供していたファイルローグが、権利侵害の主体と認められた判例もあることから、「実際にはサービスの状況、実態を見て判断される可能性が高い」(五十嵐氏)という。

激増する権利者からの削除依頼に対して、どこまで対応できるかがYouTubeの課題

激増する権利者からの削除依頼に対して、どこまで対応できるかがYouTubeの課題

権利者と利用者のバランスが議論の焦点に

 権利侵害に対するサイト運営者側の対応については、YouTubeのように利用規約に明確に著作権違反行為に対する規定を盛り込むこと、違反を犯したユーザーに対する厳しい姿勢を示す必要がある。また、削除依頼に対する迅速な対応体制の構築とチェック体制の構築も重要だと五十嵐氏は話す。ただし、「チェック体制を厳しくしすぎると、“ユーザーが勝手にやっていること”とはもはやいえなくなる。すると、逆に管理責任を厳しく問われる可能性もある」(五十嵐氏)ため、バランスが難しいという。

 一方、テレビ局やレコード会社といった権利者側の対応としては、運営者の責任を徹底して追求していくことに加えて、独自のビジネスモデルを構築していくことが挙げられる。五十嵐氏は、今後は権利者がYouTubeなどの運営者側と連携していく動きが主流になるだろうとの見方を示した。

 運営者側も権利者側も難しい対応が求められている著作権問題だが、五十嵐氏によれば、技術と法律に関する問題は何も新しい問題ではないのだという。代表的な事例としては、違法録画を可能とするビデオデッキの製造者の責任が問われた、ソニーのベータマックス訴訟(1984年、米国)がある。この裁判では、最高裁の判決でソニー側の勝訴が確定したものの、結果は4対3の1票差という僅差だった。「Web2.0を論じるうえでもっとも重要な判例。この判決でソニーが負けていれば、今日のインターネットはなかったかもしれない」。

 五十嵐氏は最後に、「米国では著作権は文化の振興がまず前提であり、技術や社会が変われば法制度が変わるというスタンス。日本の場合はこの点がやや異なるが、いずれにしても、権利者と利用者のバランスをどう取ると“文化の振興にプラスなのか?”というのが議論の焦点である点には変わりはないだろう」とまとめた。

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