ファイル交換ソフト「Winny」開発者の東京大大学院助手、金子勇被告に対し、京都地裁が13日、著作権法違反ほう助の罪で有罪の判決を下した。アスキービジネスでは、今回の裁判で弁護団の事務局長を務める壇俊光氏、インターネットに関する法律に詳しい弁護士の牧野和夫氏、「2ちゃんねる」の管理人である西村博之氏にコメントを求めた。
技術の価値が理解されておらず、残念
今回の裁判で弁護団の事務局長を務める壇俊光氏のコメント。
「私たちは、検察の「被告人が著作権法違反蔓延を意図してWinnyを公開した」というストーリーを打ち破りました。Winnyが専ら著作権法違反を助長するソフトであるという主張も打ち破りました。
裁判所は、被告人がWinnyを将来的に新しいビジネスモデルができることも期待しつつ提供したと認定した。
それでなぜ罪になるのでしょうか。
違法行為が多発していることを認識していれば罪になるのであれば、自動車はどうなるのでしょうか。高速道路はどうなるのでしょうか、技術の価値を理解されずに残念です。」
特殊なケース。一般のファイル交換ソフトの開発には適用されない
「2ちゃんねるで学ぶ著作権」(アスキー・西村博之氏との共著)、「インターネットの法律相談」(学陽書房)などの著書を持ち、インターネットに関する法律に詳しい弁護士の牧野和夫氏は、以下のように語った。
「ソフトの開発者が刑事で有罪判決を受けたのは、おそらく世界で初めてではないかと思いますが、今回のケースは特殊なケースで一般のファイル交換ソフトの開発行為にはそのまま適用されるものではないと理解しています。通常は、合法目的で開発される場合には、開発行為まで規制されることはありません。これはアメリカの民事訴訟でも同じ原則的ルールです。
今回のケースでは、Winnyが合法目的で使用できる場合であっても、Winny技術の現状の利用状況や(利用者の)技術への認識、提供する際の(提供者の)主観的状況などを考慮して、結果として著作権侵害を容易ならしめたとして幇助が認定されたという特殊事情があります。今回の刑事裁判では、金子被告が2ちゃんねるで著作権侵害の摘発を回避するために新しいソフトを開発すると宣言したのではないかと噂されたことから、2ちゃんねるへ当該書き込みを行なった事実の有無を含めて被告に著作権侵害回避の積極的な意図があったかどうかが重要な事実認定上の争点になっていました。京都地裁の判断は、金子被告がWinnyによって著作権侵害がネット上に蔓延すること自体を積極的に企図したとまでは認定しませんでしたが、著作権侵害を容易ならしめたとして幇助行為を認定しました。
すなわち、Winnyの利用状況をみると、交換の対象となるファイルのかなりの部分(9割近く)が著作権で保護されており、著作権侵害しても安全なソフトとして取りざたされ広く利用されていたので、そのような状況を被告は認識しながら不特定多数が入手できるようにホームページ上に公開したのであり、さらに、正犯者(既に有罪判決)が匿名性に優れたファイル共有ソフトと認識したことをきっかけとして著作権侵害行為に及んだことから、裁判所は著作権侵害を容易ならしめたとして幇助行為を認定しました。
一部では今回の判決は「幇助」を広く認める判断であるとして批判されています。漠然とした認識で「幇助」を認めると、出版物なども対象となり憲法問題(表現の自由の制限や検閲による事前規制)になるという意見もあります。しかし、ネット環境での著作権侵害事例では、殺人罪や強盗罪に適用されるべき伝統的な「幇助」理論で処理するのは無理があるので、今回の京都地裁の「幇助」を認める基準と判断が適切ではないかと思います。なお、被告は本件判決を不服として即日控訴しています。」
誰にでもわかりやすい判決が高裁で出るのを期待
Winny開発の発端となる掲示板「2ちゃんねる」の管理人である西村博之氏は、アスキービジネスの求めに対し、ブログ上に以下のようなコメントを寄せた。
「現在販売されている原動機付自転車は、リミッターという機械がついていて、60km/h以上の速度は出ないように作られています。
日本では、100km/h以上の速度を出していい公道は存在しません。
さて、Winnyは違法な用途で使われるのが予見出来たからといって、その制限をしなかったことで直ちに製作者を有罪とするのはどうなんでしょう?
100km/h以上の速度が計測できるメーターがついている自動車ってどれくらいあるんでしょう?
100km/h以上の速度を出した場合に運転者が消せないように記録をすれば、日本中のスピード違反を取り締まることも可能ですし、そもそも、100km/h以上の速度を出せなくすれば、スピード違反の発生も抑えられるかもしれません。
でも、スピード違反に使われることが予見されるスポーツカーを作っても、自動車メーカーが違法性を問われることはないわけです。
日本は罪刑法定主義という、違法であることが明文化されたものでしか、違法性を問われないという建前があるはずなので、誰にでもわかりやすい判決が高裁で出るのを期待しています。」