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社会課題解決とビジネス化を両立 仙台市スタートアップエコシステム

仙台市経済局 イノベーション推進部 スタートアップ支援課 白川裕也氏インタビュー

 東北地域のハブとしてスタートアップエコシステムの構築をリードする仙台市。東日本大震災後の2013年から起業支援を本格的にスタートし、東北大学を中心とした技術シーズと震災復興で培われた社会課題解決マインドを強みに、新たなソーシャルビジネスの創出に取り組んでいる。仙台市経済局 イノベーション推進部 スタートアップ支援課の白川裕也氏に、仙台市のスタートアップ支援のこれまでの取り組みと今後についてお話を伺った。

仙台市経済局 イノベーション推進部 スタートアップ支援課 白川裕也氏

経済持続性と社会インパクトを高め、社会課題解決型のゼブラ・ユニコーン創出を目指す

 2011年3月の東日本大震災以降、東北地域では社会課題が顕在化し、復興の過程のなかで起業や社会課題解決を目指す動きが高まってきた。仙台市では、こうした活動を支援するため、2011年の夏頃から起業家支援のプログラムがスタートし、国内の他地域に比べるとかなり早い時期からスタートアップエコシステム形成が進められてきた背景がある。

 仙台市は2013年8月に「日本一起業しやすいまち」を宣言、起業家支援イベントの開催や「せんだい創業支援ネットワーク」などを設立。2015年には、国家戦略特区の指定を受け、INTILAQ東北イノベーションセンターの開設、東北グロースアクセラレーターや東北ソーシャル・インパクトアクセラレーターがスタートするなど、スタートアップや社会起業家の育成支援が加速していった。

INTILAQ東北イノベーションセンター
https://intilaq.jp/

東北グロースアクセラレーター
https://startup-tohoku.jp/

東北ソーシャル・インパクトアクセラレーター
https://www.social-ignition.net/sia

 さらに2020年には、スタートアップ・エコシステム拠点都市に認定され、産官学連携による「仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会」を設立。東北大学もスタートアップ・ユニバーシティを宣言し、地域一丸となってスタートアップを応援する機運が高まってきている。

 2023年度には、仙台の強みを活かしたスタートアップエコシステムに発展させていくため、都心部にスタートアップ支援拠点をオープンする計画だ。

仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会
https://sendai-startup-ecosystem.jp/

「1995年の阪神淡路大震災の復興では多数のNPOが生まれました。東日本大震災は被害を受けている面積が大きすぎることや人口減少、雇用の創出といった課題もあり、復興を加速させるためには、NPO型の支援に加え、ビジネスとして持続可能な形にしていく必要がありました」(白川氏)

 仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会には、東北地域の民間企業や支援機関、ベンチャーキャピタル、国立大学など、合計53団体が参画している。各自治体や企業、団体がそれぞれ実施してきた支援活動やリソースを連携させることで、支援施策をより効率的に進めるのが目的だ。連携イベントや勉強会で情報共有し、支援者のレベルアップも図っている。

 勉強会の中で「仙台スタートアップ戦略」を策定。(1)大学技術シーズの事業化・産業化 (2)社会課題解決に向けたチャレンジ促進――の2つの方向性を掲げて、協議会メンバーが密に連携しながら伴走支援しているそうだ。

 出口として想定されるのは、社会課題解決を第一に展開し、経済的持続性と社会インパクトをも備えたゼブラ型スタートアップ。さらにその中で、社会課題解決をしながら急成長・急拡大していくユニコーン型スタートアップを生み出すのが目標だ。

 社会課題解決型のスタートアップは、継続的に経営資金を確保できずに数年で廃業してしまうケースは少なくない。

「社会起業で重要なのはマネタイズです。ストーリーやチーム、理念が素晴らしくても、マネタイズが弱いとビジネスとしては継続、成長できません。大学発スタートアップも同様に、技術が先行してマネタイズがおろそかになりがちです。顧客のニーズに向き合ってどうやってお金を稼ぐのか、という課題から逃げずに、どのようにスケールさせるか、横展開、組織の拡大を含めて支援していくことが課題です」(白川氏)

 2024年度までの目標として、スタートアップ創出と育成300社、スタートアップの資金調達額50億円以上、東北発ユニコーンの創出などを掲げており、2022年6月時点で215社を創出と育成、支援企業の資金調達総額32億200万円、ユニコーンとしては、東北大学発の株式会社クリーンプラネットが時価総額1450億円超を達成するなど順調だ。

 2011年から始まった、起業を啓発し、促進する起業家応援イベント「SENDAI for Startup!」は、3千名以上が参加する東北最大級のイベントに成長。2022年度は2月24日~26日の3日間に東北グロースアクセラレーターや社会起業家育成プログラムの成果発表、アプリコンテストの最終審査などが実施された。

社会起業家、スモールビジネス、大学発ベンチャーの3つの柱に支援

 仙台市では、(1)社会起業家 (2)スモールビジネス (3)大学発ベンチャー――の3つを柱に、市外からのスタートアップの誘致や、地元企業とのオープンイノベーションの促進に取り組んでいる。

 社会起業支援は、INTILAQ東北イノベーションセンターを中心に展開。同センター主催のアクセラレーションプログラムは、2017年から5年間で61名の社会起業家を輩出。なお、2022年に「東北ソーシャル・イノベーションアクセラレーター」から「東北ソーシャル・インパクトアクセラレーター」に名称を変更し、これまでの起業促進から、社会にインパクトを与える事業創出へと一歩踏み出した内容へとプログラムも進化している。

 次世代起業家人材育成事業として、小中学生や高校生を対象に、会社の設立や事業計画などを体験するワークショップの授業を実施。また大学生向けには、1からお店をつくりあげる実践型ビジネスプロジェクト「アキナイベース」、企業の社内人材向けの人材育成プログラムやプロボノプロジェクトなど、さまざまなプログラムを展開している。

東北プロボノプロジェクト
https://tohoku-probono.mystrikingly.com/

 スモールビジネスの起業支援には、仙台市起業支援センター「アシ☆スタ」を設置し、年間相談件数は1000件以上、そのうち年100件以上が起業しているそうだ。アシ☆スタの相談件数は半数が女性と、女性の起業率が高いのが特徴的だ。

仙台市起業支援センター「アシ☆スタ」
https://www.siip.city.sendai.jp/assista/

 社会課題解決ビジネス創出支援プログラム「SENDAI NEW PUBLIC」は、大学発ベンチャーの事業成功確率を高めるための施策だ。あらかじめSDGsの17の目標に関連する地域の課題をリスト化し、社会ニーズと研究者の技術シーズを結び付けた事業コンセプト作りや、ユーザーインタビューや実証実験を集中支援するというもの。2021年度は東北大学の研究者を中心に7名を採択し、事業アイデアのブラッシュアップや企業とのマッチング、実証実験に向けた調整を実施しているそうだ。

 実証実験支援は、公民連携窓口「クロス・センダイ・ラボ」が中心となり、実証フィールドを調整している。2021年度は年間100件以上の相談があり、15件の実証実験を実施。

 少子高齢化や人口減少、地域交通の衰退、鳥獣害対策など、地域にはさまざまな課題が山積し、複雑に絡み合っている。自動運転やオンラインサービスなど、先端技術の活用による解決策が試されているが、一筋縄ではいかないようだ。

 ニーズに合ったサービスを作り上げていくためにディスカッションを重ね、実証実験でトライアンドエラーを繰り返しているところだそう。

クロス・センダイ・ラボ

 被災地ならではの取り組みとして、防災×ITがテーマの事業創出プログラム「BOSAI-TECHイノベーション創出促進事業」を実施。同プログラムからは、緊急地震速報が出ると市の施設からドローンが飛び立ち、沿岸部の人々へ避難を呼びかけるサービスが生まれた。2016年から約4年間の実証期間を経て、2022年10月からようやく導入に至ったそうだ。今後も防災課題に対して新たな解決策を持続的に生み出していく「BOSAI-TECHイノベーション・エコシステム」の形成を目指していくとのこと。

 また東北や仙台で事業をしたい方、ソーシャルスタートアップへ関心がある方が集まるSlack上のコミュニティ「TOHOKU STARTUP BIOTOPE」を開設し、首都圏からの起業家と人材流入も目指している。2023年3月16日にはリアルイベント「TOHOKU STARTUP NIGHT」を東京・虎ノ門のCIC Tokyoで開催。仙台市長も登壇し、会場とオンライン合わせて300名以上が参加した。

 海外展開へ向けた支援としては、「東北・イスラエルスタートアップグローバルチャレンジプログラム」をイスラエル大使館、ジェトロ、MAKOTOキャピタル等が連携して実施。10社を採択し、スタートアップ国家であるイスラエルの専門家を講師にオンラインセミナー、メンタリングが行なわれた。2022年10月には、JETROと仙台市の連携で、シリコンバレーを拠点とするアクセラレーター「US Market Access Center」のキャピタリストを仙台市に招き、スタートアップや大学生を対象にワークショップやメンタリングを実施。また、選抜された11社をシリコンバレーに派遣し、マッチングやネットワーキングなどのプログラムを提供。仙台市長もシリコンバレーを訪問し、現地のスタートアップや支援者等との意見交換を行った。さらに、フィンランドのヘルシンキの起業家イベント「SLUSH」に仙台市ブースを設けて、東北大発スタートアップの株式会社ElevationSpace、株式会社3DC、障がい者アート事業を手掛ける株式会社ヘラルボニーが出展するなど、海外との連携と交流にも積極的だ。

東北・イスラエルスタートアップグローバルチャレンジプログラム
https://tohoku-israel.com/

スタートアップエコシステム拠点都市として、東北各県や海外との連携を強化

 仙台市は、東北6県のスタートアップ拠点をつなぐハブとして、東北大学を中心とした研究技術シーズと震災復興で培われた社会課題解決マインドを活かしたインパクトのある東北発のスタートアップ創出を目指している。海外を含めて人材やアイデアを取り込むことで、事業やサービスを強化できる。

 東北の中核拠点としての機能をより充実させるため、来年度は仙台市内に大規模な支援拠点の開設を計画している。これまでは仙台市はソフト面での支援を中心としており、相談窓口やイベント会場は地内に点在し、1ヵ所に集まれる場がなかった。セミナーや交流イベント、マッチングなど、スタートアップが必要とするサービスをワンストップで提供できる場として「仙台スタートアップスタジオ」を2023年度に開設する予定だ。

 最後に、今後の仙台市の取り組みについて語ってもらった。

 「東北の強みは大学技術の集積。この技術力と社会課解決マインドを併せ持つのが東北発スタートアップの特色であり、海外の同じような課題を持つ地域に持っていけばマーケットを広げられると考えています。ゼブラだけれどユニコーンに化ける可能性があるスタートアップを育てていきたい。今後はワンストップ支援拠点でスタートアップコミュニティの交流を促し、エコシステム構築をさらに加速していきます」

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