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都市デジタルツインで地域はどう変わる?仙台市民が考えた街を楽しむ新たなアイデア

「PLATEAU IDEA PITCH SENDAI 2023」開催レポート

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: PLATEAU/国土交通省

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最優秀賞は「SENDAI PLATEAUで『安心なトイレ』情報を提供」(チーム「SENDAI W・C・P」)

 アイデアソンの成果発表には5チームが登壇し、持ち時間7分でプレゼンテーション(+質疑3分)を実施した。審査基準は新規性、ビジネスモデル/公共サービスとしての有効性、3D都市モデルの活用度合い、実現可能性の4点。

 審査員として原亮氏(エイチタス株式会社)、渡辺一馬氏(一般社団法人ワカツク)、椿優里氏(国土交通省都市局)の3名が審査に当たった。審査の結果、グランプリはチーム「SENDAI W・C・P」の「SENDAI PLATEAUで『安心なトイレ』情報を提供」が受賞した。

チーム「SENDAI W・C・P」

 「SENDAI PLATEAUで『安心なトイレ』情報を提供」は、災害時に対応したトイレ情報提供サービスだ。高層ビル、ホテル、公共施設など高さ条件を考慮したデータを構築し、フロアごとにトイレの種別、数、位置やバリアフリー対応状況を空間的に整理し、対象者の状況に応じて最適なトイレ配分と誘導を行うというもの。

 公共サービスとしての情報提供を念頭に、今回のアイデアソンに取り組んだという。メンバーで話し合う中、災害時だけでなく日常や観光においても、誰もが必要とすることから、「トイレ情報」を扱うことにしたという。

アイデアの背景

 たとえば、「歩く距離を少なく」、「個室が多いところがいい」とオーダーすると、条件(要望)を考慮して「近くにこんなトイレがあります」と、ルートを選定して誘導してくれる。夏の直射日光が当たる道を10分歩くとしたら、高齢者には厳しいだろう。あるいは、ベビーカーを押している人が真冬に日陰の凍った道を行くのは危険だ。大雨災害時にはトイレのある階が浸水しているかもしれない。というように、単なるデータベースではなく、使う人やその時の状況を考慮して、情報を提供する必要があると考えた。

 また、情報を集めるためにも、ひと工夫。建物の中の何階に、どんな種類のトイレがあるのかといった情報を提供してくれた民間施設に対しては、トイレの清掃料を助成するなどのメリットを提示する仕組みで、情報をリッチにしていきたいという。

アイデアの概要

 想定する使用シーンは、災害時や平時のイベントなど。ターゲットは子どもや高齢者、障害者、海外からの観光客などさまざまだ。多言語対応にして、プッシュ型で通知するほか、距離や待ち時間を表示するなどできるように、スマホアプリでの提供を考えている。課題と展望として、重たいデータの高度化(LOD4対応)、官民一体型の運用サイクル構築を挙げた。

 審査員の椿氏は受賞の理由をこう述べた。

椿氏:アイデアとしてとてもおもしろいと思いました。都市スケールでどれぐらいの人口(また交流人口)に対してトイレが何個くらいあるかなど意外と知られていないと思うので、そういった分析ができると防災にも使えるかもしれません。また、民間事業者を含むサービスの場合、どうやってデータを出してもらうのかが大きな課題になってくると思います。そこに対して、情報提供するとこんないいことがあるというインセンティブの部分も議論していた点がすばらしいと思いました。さまざまな視点を持つメンバーが集まって議論することで、そこに至ったのかなと思います。

国土交通省 都市局 椿 優里氏

優秀賞は「災害時の避難シミュレーションゲーム」(チーム「ウラヌス」)

 優秀賞はチーム「ウラヌス」の「災害時の避難シミュレーションゲーム」。ゲリラ豪雨や津波などによる市街地の水害に対する避難シミュレーション体験をゲームで提供する。目標時間内に安全に逃げられるかを試すゲームで、さまざまな危険リスクを回避し、より早く目的の高層階に逃げるとゲームクリアとなる。

チーム「ウラヌス」

 個人が持つスマホなどモバイル端末、自治体市役所などにある大画面のパネル、あるいはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を用いたVR/ARシステムなどで提供することを想定。臨場感と災害危機意識を高めて、災害時にすぐに垂直避難するための建物を選んだり、建物までの適切な避難ルートを選択できたりするように、体験者の避難知識や判断基準を養うことが目的だ。

「災害時の避難シミュレーションゲーム」のイメージ

 ターゲットは、主に子どもや主婦。例えば、子どもが学校の授業などで利用する(目標時間以内にゲームをクリアできた生徒は内申点が上がる)ほか、主婦がポイ活を目的にゲームをするうちに避難の知識が身に付くというような利用シーンを想定している。

 ゲームを実現するには道路の幅や建物の年数、街路樹や電柱、信号機の情報、建物内の階段やエレベーターの情報などさまざまな情報が必要になるものの、実態に即した地理空間情報やセマンティックスな情報を前提とすることで3D都市モデルが大いに活用されるとした。

 審査員の原氏はチームメンバーにこうアドバイスした。

原氏:バーチャルな避難シミュレーションができるのは、PLATEAUであるからこその魅力のひとつだと感じます。一方で、よく出るアイデアでもあるので、ゲーム性をもっと意識して、普及につなげるための体験の質をどう作り上げるかについて、もう少し新規性があるとさらに良かったでしょう。

エイチタス株式会社 原 亮氏

アイデア賞は「街中ドライブシミュレータ 頭文字P」(チーム「加藤豆腐店」)

 アイデア賞は、チーム「加藤豆腐店」の「街中ドライブシミュレータ 頭文字P」。車を持ってない人にドライブの楽しさを知ってもらい、若者の車離れを抑制することを目指した、街中をドライブできるシミュレータだ。

チーム「加藤豆腐店」

 仙台に限らず全国各地の都市の街並みをアピールする観光PRのほか、3D都市モデルの建築物モデルを活用することで実際の街中を再現し、ペーパードライバーや高齢者ドライバーのトレーニングツールとしても活用できるとした。モニターとコントローラの一式を市役所やコミュニティセンター、カーディーラーのショップに設置し、誰でも楽しめる無料のサービスを想定している。

 このサービスを通して運転する楽しさを体験してもらい、自動車の購入につながれば自動車会社の販売促進につながる。自治体にとっては、ドライブ体験を通して地域の観光PRになる。トレーニングツールとして広く普及すれば、交通死亡事故の低減にもつながる。こうしたメリットが循環する仕組みを目指す。

メリットの循環

 ただ、リアルな街の再現には、インフラ、建築物、街路樹などLOD3以上のモデルが必要だ。今後の展開として、交通シミュレーションツールへの活用、渋滞状況のシミュレーション、気象庁のデータによって実際の気象とのリンク、海外の都市データの実装が考えられる。また、より広い層に使ってもらうためにスマホアプリも考えているとした。

 審査員の渡辺氏はアイデアを評価しつつ、バーチャルだからこその飛躍を求めた。

一般社団法人ワカツク 渡辺 一馬氏

渡辺氏:当初のプレゼンがおもしろかったのでアイデア賞にさせていただきましたが、ご自身がやりたい「街中を爆走する」というのを、もっと押し出したほうが、もっとおもしろくなるのではないかなと。仮に自分の車でシミュレーションしてみて、爆走しても安全に曲がれる道はどこだとか、爆走するとやはりここは危ないとか、そういう情報を積み上げていく。すると、安全に通るにはどうすればいいか、といったことがわかってくるでしょう。

 せっかくバーチャルな世界でやっているのに、お行儀良く現実的なことをしてもあまり楽しくない。あえて悪いことをした結果が地域そのものを良くすることにつながるという、価値を転換できるようなゲームの作り方ができれば、さらにおもしろくなる。若い方が考えていると思うので、時速220キロぐらいで東二番町通りを爆走して曲がりきれなくてオーバーランするっていうのをぜひ作っていただきたいと思いました。

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