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「スタートアップ育成5か年計画」を経産省やスタートアップ協会、大手VCが語る

IVS2023 KYOTOセッションレポート『「スタートアップ育成5か年計画」の道の歩き方

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世界で戦う起業家を育てるためにするべきことは?

砂川:実業家集団「ペイパルマフィア」に見られるとおり、スタートアップの社員が次のスタートアップを経営者として率いるサイクルがある。このサイクルをつくるためにはスタートアップで働く人が、メリットを享受できる環境づくりが重要だ。

砂川大氏

 たとえばストックオプションでメリットを得た人たちが、次の起業家になる流れは非常によい。また、大学で起業家が、起業家マインドセットに関する講義をする取り組みも広がるとよいと思う。

:起業家1000人を海外に派遣する起業家育成プログラム「J-StarX」もある。現在公募中で、アメリカに限らず、アジアやヨーロッパのさまざまな国に、起業家を派遣する取り組みだ。学生限定のプログラムもあるので、海外進出に興味がある人材にぜひ勧めてほしい。

小笠原:京都芸術大学のクロステックデザインコースに参加する200人弱に「J-StarX」を紹介したが反応はなかった。このことから起業家の前に、キャピタリストや支援者を海外に派遣するべきだと思う。大谷翔平も自力で渡米したわけではなく、海外にエージェントがいたから現地に行けた。

佐俣:世界で戦う起業家になるための戦略は2つある。1つめは経営陣が外国人のチームをつくること。海外展開するタイミングで外国人材を招聘するとカルチャーのアンマッチが発生するため、創業時からジョインしてもらうことが重要だ。

 2つめは世界市場を独占するような特定部材を生み出すこと。たとえば信越化学工業株式会社は、時価総額9.6兆円で国内時価総額ランキング12位(2023年7月18日時点)だ。さまざまな特定部材で、世界シェアNo.1を獲得している。ディープテックとして注目されている分野もこれに近く、世界トップの部材を磨き上げる戦略は有効といえる。

宮下:グローバルなスタートアップを創出するために必要なことは、日本取締役協会が提言書(PDFリンク)を公開しているので、まずはそれを読んでほしい。提言書の中から2つポイントを紹介すると、1つは自分たちの競争領域をしっかりと定義するビジネスモデルをつくることが重要だ。

 たとえば日本の研究者は素晴らしい技術をビジネス化するとき、その技術を川上に位置付けて川下まで担おうとする。要は、製造や販売まで手掛けようとする。しかし、グローバルで考えれば、競争領域を川下まで広げることは悪手だ。技術力で勝負するなら、とにかく技術でグローバルに挑戦するビジネスモデルと、それを実現するCSO人材が必要となる。

 もう1つは起業家がグローバルの世界線を理解することだ。世界には米国のメディカルスクールの博士号に加え、スタンフォードの修士号を持っているようなプレイヤーがごろごろいる。ただ、日本の起業家に同じようなことが求められるのかというと、そうではない。

 日本取締役協会としては、プロのCSO人材をキャラバン的に起業家とマッチングさせ、シリーズAまで伴走しながら、会社にグローバルのVCを呼び込めるような仕組みを作りたいと考えている。

出口戦略の種類とどのような基準で選ぶとよいのか?

:日本のスタートアップの出口戦略は8割がIPOで、IPO偏重といわれている。国としてはM&Aを増やしていきたい。M&Aで事業をイグジットした人が、シリアルアントレプレナーやエンジェル投資家になるエコシステムを形成したいためだ。しかし、M&Aが増えない状況で、その原因やそもそもIPO偏重でよいのかなどの意見を聞きたい。

宮下:米国ではイグジットの9割がM&A、1割がIPOで、日本と逆の割合だ。これは日本がGAFAMを生み出すことが、Googleをつくることではないことを意味する。Googleのオリジナルの事業は検索エンジンのみで、その他は買収したスタートアップの事業だ。

 つまり、日本からGAFAMを生み出すことは、Googleに乗れるスタートアップを生み出すことだ。Googleのプラットフォームビジネスは、ビジネスモデルのことではなく、彼らの人事力や組織力そのものを指す。日本におけるIPOの調達金額はせいぜい数億円。それならM&AでGoogleになるほうがよいという考え方を提言していきたい。

佐俣:多くの起業家はIPOを希望する。IPOの場合、とくに難しいのが20から30億円規模のIPOだ。これは日本独自の出口戦略で、株式会社SHIFTのように数千億円規模になることもあるが稀だ。20から30億円の企業は20から30億円のままで、M&AやMBOもされないケースが多い。

佐俣アンリ氏

 これは貴重な人材を、伸び代がない会社の維持、メンテナンスに費やすという社会資本の損失といえる。本当はGoogleのように、どんどん連合するほうがよい。Y Combinatorでは簡易M&Aのように、参加者が伸び代のあるプロジェクトにジョインする事例が多くある。

 つまりY Combinatorは貴重なリクルーティングの場になっている。Y Combinatorに参加するような起業家をメンバーに迎え入れられるためだ。実際、シードラウンドで事業が停滞しても、上場するレベルの企業で役員を務められる人材は非常に多い。「スタートアップ育成5か年計画」においては、貴重な人材が連合して、巨大企業をつくることが重要だ。

小笠原:ファンド運営者として、出口戦略でM&Aを考えていると申し訳なさそうにいわれることに違和感を抱いている。M&Aにより3年で3倍に拡大できるなら何の問題もないためだ。ファンドは7〜10年で5倍に拡大できれば次のファンドをつくれる。短期間でM&Aによるイグジットを狙うことは、まったく悪ではない。

砂川:米国のVCに所属していたときは、出口戦略といえば圧倒的にM&Aで、VCもM&Aの方向にスタートアップを導いていた。しかし、日本ではM&Aは「負け」のような風潮があったり、多くの仕組みがIPOベースで作られていたりする構造上の問題もある。たとえば、投資契約書に「IPOを目指します」と書かれていることなどだ。

 またM&Aする側のPMIが非常にへたという問題もある。PMIがうまく進まずに干されてしまった先輩起業家の話を聞いて、M&Aに悪い印象を持ってしまう起業家が多い。ただ、シンプルにIPOを目指すべきかどうかでいえば、伸び続ける事業ならIPOすればよい。なぜならIPOは資金調達の手段だからだ。

佐俣:IPOするということは、少なくとも年間20%以上の成長を10年以上継続することだ。伸び続けられる事業なのか、伸び続けられる経済状況にあるのかという問いに答えられない企業は多い。

:国のM&Aを増やすための施策に、税金の優遇措置がある。スタートアップをM&Aした企業は、取得金額の25%を所得控除される制度だ。国は本気でM&Aを増やしたいと思っている。起業家は国がM&Aを推進していることを念頭に置き、交渉材料としても活用してほしい。

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