デジタル免疫システムとは?重要性や事例を紹介

文●ユーザックシステム 編集●ASCII編集部

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本記事はユーザックシステムが提供する「DX GO 日本企業にデジトラを!」に掲載された「デジタル免疫システムとは?重要性や事例を紹介」を再編集したものです。

 2025年の崖が目前に迫り、DX推進が急がれるなか、さまざまな技術トレンドが話題にのぼっています。「デジタル免疫システム」という言葉もそのひとつです。まだ多くの人にとってなじみのある言葉ではありませんが、2025年の崖克服に向けて、DX推進に関連する用語として、いま押さえておきたいキーワードです。

 本記事では、デジタル免疫システムの意味や重要性、事例などを紹介します。

デジタル免疫システムの意味と必要とされる理由

 デジタル免疫システムとは何を指すのでしょうか。また、なぜ今必要とされるのでしょうか。順に見ていきましょう。

■デジタル免疫システムの意味

 デジタル免疫システムとは、生物の免疫機能の仕組みをヒントにデジタル技術に応用した概念です。

 ウイルスや細菌のような異物から体を防衛する免疫という仕組みのように、システムに異常をおよぼす危険性がある要因に対し、適切に処置する仕組みをつくり、障害への耐久性や復旧の迅速性を向上させる取り組みのことです。

 記事後半で説明する、さまざまな技術や対応によってシステムの回復力を高め、障害からの迅速な復旧を目指します。

■デジタル免疫システムとDX―2025年の崖との関係

 2018年に経済産業省がまとめた「DXレポート」において、初めて「2025年の崖」という言葉が使われました。2025年の崖とは、多くの日本企業に見られる以下のような課題から、新しい技術の活用ができず、競争力が低下し、大規模な経済的損失が出ると予測されている問題のことです。

・ITエンジニア不足
・アプリケーションのサポート期間終了
・レガシーシステムのブラックボックス化

 2025年の崖を回避するためは、レガシーシステムを刷新してDXを推進する必要があります。

 DXを推進するには、激しい市場ニーズの変化に応えるため、データを活用したデータドリブンな経営戦略が求められます。しかしレガシーシステムではそれが困難です。また、レガシーシステムを理解するエンジニアが引継ぎをせずに退職してしまい、ブラックボックス化しているケースも少なくありません。

 レガシーシステムを使い続けることは、DX推進の足かせとなってしまいます。

 一方でDXとは、デジタル化によって製品やサービスのみならず、組織やビジネスモデルなどのあらゆるものを変革する取り組みです。それは、顧客に新たな価値を提供することで市場競争力を高める目的で行うものです。

 そのため、UX(ユーザーエクスペリエンス:ユーザー体験あるいは顧客体験)やCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)の維持・向上の視点を忘れてはいけません。

 デジタル免疫システムは、ソフトウェアのバグやセキュリティー問題からシステムを保護し、迅速な復旧を行うことでUXやCXの低下を防止する役割を持ちます。

 DXとUX、CXとの関係について詳しくは、以下の記事をご覧ください。

DXにはUX向上が不可欠!その関係性や効果的な進め方を解説

 また、データドリブンについて詳しくは、以下の記事をご参照ください。

データドリブンとは?活用するメリットや実行方法、事例などを紹介

■デジタル免疫システムがDX推進・2025年の崖回避に必要とされる理由

 アメリカの調査会社Gartnerでは、デジタル化実行にあたっての障壁に対する課題の克服についての調査を実施しました。

 同社の日本法人であるガートナージャパン(以下、ガートナー)よると、回答者の48%、実に半数近くが、デジタル投資の主な目的はCXの改善であると回答したとのことです。

 ソフトウェアの不具合やセキュリティーの問題などによるシステム障害や異常は、CXを大きく低下させます。デジタル免疫システムは、そのような状況に陥らないための重要な取り組みといえるのです。

 ガートナーでは、「2025年までに、デジタル免疫システムに投資する組織では、ダウンタイムを80%削減し、これによって顧客満足度を高めることができるようになる」と、予測しています。

引用:デジタル免疫システムとは何か? | ガートナー

デジタル免疫システムを強化する6つの要素

 ガートナーでは、デジタル免疫システムの強化には、次の6つの要素が必要とされています。

・オブザーバビリティー (可観測性)

 システムやソフトウェアを「可視化」することで、信頼性や回復力、UXを向上させるための情報を取得できるようにします。

・AI拡張型テスト

 ソフトウェアテストの計画・作成・保守・分析・実行をAIにより自動化し、人間の関与を減らす、あるいは完全になくします。

・カオス・エンジニアリング

 本稼働前に、システムに障害を実験的に加えることで、システムに潜む脆弱性・弱点を見つけます。そこから得られた教訓を通常の運用に生かします。

・自動修復

 条件に応じた監視・自動修復の機能を、システムやソフトウェアに組み込み、人を介さず問題を自動的に修復する仕組みを構築します。オブザーバビリティーやカオス・エンジニアリングと組み合わせて不具合を修復することで、問題の未然防止も可能となります。

・サイト・リライアビリティー・エンジニアリング(SRE)

 信頼性が高いシステムを実行するために必要なマインドセットやエンジニアリング手法を用いて、システム管理やサービス運用を行います。

・ソフトウェア・サプライチェーン・セキュリティー

 ソフトウェア・サプライチェーンの構成要素に対するあらゆる攻撃リスクに対応します。ソフトウェアがどのような構成要素で成り立っているかが一覧できるソフトウェア部品表(SBOM)の適切な管理が、セキュリティー向上に役立ちます。

デジタル免疫システムがどのように役立つ?事例を紹介

 デジタル免疫システムは、実際どのように役立てることができるのでしょうか。事例を紹介します。

■AIの精度劣化を自動修復するシステム

 F研究所の人工知能研究所が発表した世界発の新技術です。

 AIには、運用していくうちに精度が少しずつ劣化してしまうという課題があります。時間経過とともに外部環境に変化が生じることは少なくありません。その結果、AIモデルに入力するデータの傾向が運用開始時のデータから変化してしまい、当初の学習データでは対応しきれなくなることで、精度の劣化が起こるとされています。

 これを防ぐためには、AIモデルに定期的な再学習をさせることが必要ですが、その作業にはコストも時間もかかるため容易にはできません。

 そこで同研究所は、時間とともに変化する外部環境においても、当初と最新のデータ内容の差分を比較することでAIの精度劣化を自動推定する技術を開発しました。それにより、元のAIモデルでは1年後に91%から69%へと精度の劣化が見られたものが、89%の精度を維持することが可能となりました。

■自己修復型RPA

 P社は、人の手を使わず、壊れたボットを迅速に検出、修復する機能を持つ、業界初の自己修復型RPAを発表しました。

 P社が2019年秋に実施した調査によると、87%もの企業でボット障害を経験していることが明らかになりました。ボット障害が起これば予期しないダウンタイムや余計な投資が増え、会社として不利益を被ることになるため、対策が必要です。

 同社は、特許取得したアプローチをRPAに適用し、独自の方法で課題を解決しました。その結果、壊れたボットを検出して自動で復元し、複雑なボットの作成を効率的に行うことが可能となりました。

デジタル免疫システムは押さえるべき戦略的技術トレンド

 「デジタル免疫システム」は、すべての障害を未然に防ぐことを前提にするのではなく、障害が発生した際には迅速に回復できるようレジリエンスを高めることを目的とする現実的な技術です。加えて、DXの本質にある「UX/CXの向上」も期待できることから、DX推進には必須の概念ともいえるでしょう。基本的な内容を押さえて、自社に適したかたちで対応していくことが大切です。

 なお、Gartner社が2023年のトレンドとして言及したものには、デジタル免疫システムのほかに、「AI TRiSM」もあります。AI TRiSMについて詳しくは、「AI TRiSMとは?DX推進に向けて押さえておくべきトレンド」をご覧ください。

■関連サイト

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