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オープンイノベーション活動に関わる人的側面:組織と個人で求められる効果的アプローチとは

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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自前主義、NIH症候群(Not Invented Here症候群)

 オープンイノベーション活動ではさまざまな関係者に協力を求める必要があるが、その際に個人の心理に注意を払う必要がある。この点に関して頻繁に言及される言葉としてNIH症候群があり、「専門分野、組織/機能/職位、または地理上の位置の点で外部と見なされる知識に対して個人の否定的に形作られた態度によって引き起こされるバイアスであり、結果としてその知識の低評価または拒絶につながるもの」として定義される。
*Antons, David and Frank T. Piller [2015], "Opening the Black Box of “Not Invented Here”: Attitudes, Decision Biases, and Behavioral Consequences," Academy of Management Perspectives, 29(2), 193-217.

 Antonsによると、多くの文献においてNIH症候群は逸話的に描写されており、体系的な調査が行われてこなかった。NIH症候群は社会心理学の概念である態度が持つ機能に由来している。態度は正確にはより複雑な概念として定義されているものの、ある程度は個人が持つ「好き嫌い」に相当するものである。そして社会生活や人的交流に影響を与える主要な決定要因と見られている。

 HannenはNIH症候群に対して下記の対抗策が実施されていることを報告している。

●従業員の異動
●外部専門家の参加
●パフォーマンスのマネジメント
●組織の枠を越える担当者の任命
●目的の設定
●接触回数の増加
●同僚や上司その他との相互学習
●チェックリストの活用
●情報のコントロール
●NIH症候群についての教育
●オープンイノベーションの実践
●態度の変化を狙った説得
●イノベーション文化の普及

 しかし、短期間で効果を発揮し、かつ個人として能力を開発できる対抗策は存在しないことが明らかになった。そこでより詳細な分析を通じて、他者の心理学的な観点に立って考える認知プロセスである「視点取得」というアプローチを提案している。視点取得を用いれば、重要な知識を他人と共有し、逆に他人から得られた情報をより深く評価できるようになる。具体的には、以下の質問を行うことが推奨されている。

●外部の知識や特定の解決策はどのように開発されたか?
●解決策提供者の観点から見た主なセールスポイントは何か?
●なぜ解決策提供者は知識を共有することに決めたのか?
●なぜ解決策提供者はその知識に価値があると考えたのか?

*Hannen, Julian, David Antons, Frank Piller, Torsten Oliver Salge, Tim Coltman and Timothy M. Devinney [2019], "Containing the Not-Invented-Here Syndrome in external knowledge absorption and open innovation: The role of indirect countermeasures," Research Policy, 48(9), 103822.

著者プロフィール

羽山 友治
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。NEDO SSAフェロー。
https://www.s-ge.com/ja/article/niyusu/openinnovationhayama2022

※次回は8月28日掲載予定です

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