外出困難な人が「リアル」に参加できる場所を作る――吉藤オリィさんインタビュー

文●アカザー 編集●ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」(外部リンクhttps://www.barrierfreenavi.go.jp/)に掲載されている記事の転載です。

【吉藤 オリィ(本名:吉藤健太朗)】
分身ロボット「OriHime」の開発者であり株式会社オリィ研究所所長。2007年に早稲田大創造理工学部に入学後「オリィ研究室」を立ち上げ、1年半後に”OriHime”のプロトタイプの開発に成功。2021年6月から「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」をオープン。愛称の「オリィ」は趣味の折り紙が由来。

 外出が困難な人が遠隔で自分の分身となるロボット「OriHime」&「OriHime-D」を操作し、接客をしてくれる「分身ロボットカフェDAWN ver.β」。実際に体験してみた様子は、前回の記事でお伝えしました。

 後編記事となる今回は、分身ロボット「OriHime」シリーズの生みの親で、「分身ロボットカフェDAWN ver.β」を運営する株式会社オリィ研究所所長である吉藤オリィさんにお話を伺いました。

 オリィ研究所所長である吉藤オリィさんは、インタビュー当日はある実験のために蔵王に出張中とのことで、「分身ロボットカフェDAWN ver.β」と、蔵王のカフェとをZoomでつないでのインタビューとなりました。

蔵王のカフェと分身ロボットカフェをZoomでつないでインタビュー開始。

“心を運ぶ車いす”として分身ロボット「OriHime」を開発

 皆さんは「分身ロボットカフェ」にいらっしゃるんですね。今日はZoomですが、よろしくお願いします。

――よろしくお願いします。

 私はもともと車いすを作っていました。私自身、体が弱かったこともあって、もっとカッコイイ車いすに乗りたいと思っていました。車いす自体は面白いんですけど、あのビジュアルが好きではなかった。ファッションとして見た時に、あれに乗って移動したいかというと、移動したいとは思えなかったのです。

 例えば車ってかっこいいじゃないですか。椅子だって座りたい椅子があったりする。車と椅子にはオシャレなものがいっぱいあるのに、合体したらなぜあれが生まれるんだろうと。自分が体を壊して車いすで移動した時に、何か違う感じがしたんですよね。それでもっと自分が乗りたいと思える車いすを作りたいなと思って、工業高校では車いすの研究をやっていました。

 ただ、車いすがあっても外に出る事ができない人もけっこういるということがわかって、心を運ぶ車いすが必要なんだと思うようになって。つまり、車いすって体を運ぶものなんですけど、体を運ぶことができない人もいて。世の中って体を運ぶことが「参加」であり「出席」であって、だから私は出席日数が足りずに早稲田大学を卒業できなかった。

 出席って体が動くことが前提になってる。つまり参加っていうのはそこに体を運ぶことなのですが、それができないと参加と認められないし、周りからそこに居ていいっていうふうに思われないんだなとずっと思っていて。

――今はリモート通学の認知度はだいぶ上がりましたが、10数年前はまだそうではなかったんですね。

 そうですね。なので私は参加っていう事に対して、体を運ぶことができない人にとっての心を運ぶというか、存在を運ぶためのモビリティが必要だと思ったんです。

 当時VR世界とかオンラインゲームとかもやっていたんですけど、そうじゃなくて、リアル空間の街の中とか、日常生活とか暮らしの中に溶け込むように参加していくっていうふうなものを思い描きました。お祭りに行きたかったとか、友人と一緒にどこかに行きたいとか。そういうことをできるようなツールを作ろうと思って、もうひとつのモビリティとして「OriHime」をつくりました。

友人と一緒にどこかに行きたいという考えから「OriHime」を開発。

 それを使って学校に通ったりだとか、入院している子供が家に帰ったりだとか、そういう使い方をはじめはしていたんですけど、でもちょっと使ってみると、やっぱりみんな何かがしたいと。その「OriHime」を使うことによって、目の前の人を助けたいし、誰かに必要とされたいとか、自分がそこに居ていいって思えるようにしたい! っていう人がやっぱりたくさんいて。

 それってなんだろう? と考えると、誰かの役に立つとか、誰かに喜んでもらえるみたいなことで、それをどうやったら作れるだろうか? と考えた時に、寝たきりのメンバーたちと、分身ロボットを使って働ける接客ができるようなカフェを作ろう、と。そういう構想になったのが2016年で、そして2018年に第1回のお店をオープンさせてという感じですね。

2018年に開催された第1回「分身ロボットカフェ」の模様

分身ロボットカフェで実感した“非目的コミュニケーション”の大切さ

――実際にお店をオープンする前と後で変わったことはありますか?

 いろいろな気付きはありました。社会に出てお金を稼げるというのもそうですが、目の前の誰かが喜んでくれるっていうのを実感できることとか、一緒に働く同僚がいるというのが非常に大事ですね。

 例えば我々はコロナ禍でZoomが流行った時に、Zoom飲み会みたいなことをやった。けどうまくいかなかった。我々は関係性を作るためにそういう場に行くのではないんです。学校の休み時間のためだけに学校に行く人なんていなくて。学校であれば国語と算数の間の休み時間であったりとか、職場でも仕事のために出社して、仕事と仕事の間にお昼休みがあって、一緒にご飯を食べたりしながら関係性を築いていきます。

 そういう余地というか、そのリアルの価値というものをどう作っていくのか? という考えをずっと持っていたので、カフェを作ったのはコロナ禍になってからですが、その点はコロナになってみて、私のその考えが肯定された感じがありますね。

 車で移動することの価値とか、電車で移動することの価値って何かっていうと、その道中で行なわれるコミュニケーションだと思っていて。たぶん「どこでもドア」ができたら人は目的の場所に行ってすぐ帰るから、一緒に街を歩いたりとかはしなくなる。そして道を歩くことによって発見されるものとか、一緒に歩いているからこそ交わされる会話とかで、相手のことをよく知っていくっていう時間が減ります。

 それは今やっているこのZoomであったりとか、私も30分刻みで予定が入ってたりしますけどそれは良くないと思っていて。例えば私が今そちらの分身ロボットカフェにいたら、この取材が終わった後に「じゃあ入り口までお見送りしましょう」とか「軽く店内を案内しましょうか?」と言うことができて、そこから「皆さんは今日はどちらからいらっしゃったんですか?」みたいな、仕事以外の話ができたりしたかもしれない。

「目的以外でコミュニケーションを図る時間は大切なんです」と吉藤さん。

 目的以外のコミュニケーション、目的と目的の間にある非目的なコミュニケーションをどう作っていくかが重要であると思っていているからこその、お互いの信頼性だと思っています。

――移動の時間を全く必要としない分身ロボット「OriHime」を開発し、障害者がリモートで働けるカフェを運営する吉藤さんが、目的以外の日非目的なコミュニケーションや移動時間を大切に思っているのは意外な感じがしますね。

 すいません。タクシー乗るのでいったん切ります。

蔵王のカフェからタクシーに乗って移動を開始する吉藤さん

移動しながら共有する時間の大切さ

 すみませんお待たせしました。タクシーで移動中です。

――タクシーで移動しながらのZoomだと、我々も一緒に移動している感じがしますね。(笑)

 移動時間もね、こういう目的のコミュニケーションしかしなくなっちゃったら終わりだなと思いつつも、今それをやっちゃってますね。(笑)

「「OriHime」と一緒にドライブするもの案外楽しいんですよ」と語る。

「OriHime」が担うリアルワールドへの窓口

――スケートとかサバゲーとかを「OriHime」と一緒にやっている吉藤さんのツイートを拝見したのですが、いま実験中のスキー以外にも「OriHime」を使った実験を重ねて行くのでしょうか?

 分身ロボットカフェを作ったのもそうで、そこにお客さんが来てくれることとか、お客さんと会話が弾むこととか、他のスタッフと一緒に働いている感じの楽しさ。要は、私の中ではこういった未来でありたいと思っているのです。体が動かなくなっても一緒にサッカーやりたいし、サバゲーもやりたいし、スケートにも行きたい。

 このカフェに来てくれたお客さんに聞いているのは、障害者が働ける店ではなくて、将来自分の体が動かなくなった時に、働きたいと思える場所なのかどうか? です。

――分身ロボットカフェに来る前は、オンラインで障害者が働ける時代になった! と思っていましたが、実際に来て体験して、吉藤さんのお話を伺っていると、これはリアルワールドへの窓口としての「OriHime」を使った実験なんだと気付きました。

 今メタバースという言葉が流行ってますよね。それってリアルに住んでる人たちが、どうやってVR空間に入っていくのかという文脈で語られていますけど、我々からすると逆なんです。

 引きこもっていた私にとってのリアルな世界というのは、フィジカルな世界よりも、VRやオンラインゲームの世界のほうがよっぽどリアルだった。現実だったわけです。寝たきりの人からすると、パソコンが毎日目の前にあるのでパソコンのない時間よりもある時間の方が長いわけです。そう考えると、彼らはもともとメタバース世界の住人なのです。そこのメタバース世界で満足のいかない彼らが、どうやってフィジカル世界に行くのか? というツールが必要で、だから両方必要なんです。

――それはオリィさん自身が体が悪く、メタバース世界の住人だったからこそ望んだものだったりするんですか?

 そうです。オンラインゲームはけっこうやってましたしね。それもあるし、今は健常者でも寝る瞬間までスマホでTwitterやYouTubeとかをやりながら眠りに落ちて、朝カーテンを開けるよりも先にスマホを確認する。そんな我々にとって、もはやフィジカル空間は“行く場所”になっている。帰るところではなくてね。

 でもフィジカル空間にいる人間はデジタルを捨てるのかというと、まずそれは起こらない。人はデジタル空間があれば便利だし、バリアフリーだし、VR世界にこもっていればいいのでは?という話もずっと言われてきました。

 だけど、コロナ禍によって人はフィジカルを求めることが証明され、そしてメタバース世界だけでは、人は決して生きていけないということもわかりました。では、そのフィジカルとデジタルの世界をどう生きていくのか? その中間が必要なんですよ。

 これも昔から言われてきたことですが、寝たきりの人たちはずっとリアルに行きたがっている。だからこそ、我々の分身ロボットカフェというものによって、VR世界やネット社会の住人たちがフィジカルに参加する。その存在をリアルに運ぶモビリティです。

必要なのはオンライン世界とリアル世界をつなぐインターフェース

 アイデンティティなんですよね、存在って。オンライン世界には例えばVTuberが居ますけど、VTuberの人格を維持した状態で、フィジカル世界には参加できない。生身の体と違うから。そのオンライン上の自分のアイデンティティを持った状態で、このリアル世界に入っていくための方法が必要になる。

 障害者になったらずっとオンライン世界に居ろって言われるのって辛いじゃないですか。そこはもっと何かうまくやれる方法があるのではないかと思っていて、昔はオンラインゲームとかはプライバシーの観点から、名前じゃなくて匿名でやっていた。でも今はSNSとか実名でやっている人は多いし、オンラインゲームでも実名でやっている人っていますよね。

 リアル世界で作ったアイデンティティを持った状態で、例えばTwitterとかのフォロワー数っていうものをオンラインに同期させることによって、オンライン世界でも同じアカウントにフォロワー数を増やすみたいな関係性を持っていける。

 その逆で、VTuberであったりVR世界でそのアイデンティティを作った状態で、リアル世界で活用しようってことになっても、フィジカルの肉体っていうものでは、なかなかそれを発揮することができないケースがある。

――そこでオンライン世界で活躍してきた人たちが、リアル世界に降臨するためのアバターとして「OriHime」が必要なんですね?

 必要なのは、社会とつながるインターフェースです。生身の体というインターフェースだと、感覚過敏で人の匂いが気になってしまう人だとか、周りの目が気になってしまう人だとか、相手の眉毛がちょっとピクって動いただけでなんかヤベェこと言ったかな? って頭の中でぐるぐる回ってしまう人とか。でも、オンライン世界だとそうならないっていうところがあって。だとすると「OriHime」のようなデバイスがあればリアル世界でのコミュニケーションのハードルを下げられるんじゃないか? と。

――「OriHime」がインターフェースとしていちばん大切にしている事は何でしょう?

 「OriHime」がいちばん大切にしてるのは、人と会話することです。人と対話する、コミュニケーションするためのツールとして作ったので、ロボットのデザインもそうですし、「OriHime」を使うことのほうが生身の体を使うよりも、人とコミュニケーションを取りやすいっていうものにしたいんです。

 先ほどカフェで「OriHime」を介してさきさんと話されたと思うんですけども、もしさきさんが生身の体で目の前にいたら、同じような会話はしてないと思うんですよね。というようなことが「OriHime」なら起こるな、っていう感覚はずっとありましたね。

確かに「OriHime」を通してのコミュニケーションは、生身の人間同士のそれとは、会話の進め方からして違う気がする。

分身ロボットだからこそ“人間くさい”コミュニケーションが可能になる

 「OriHime」を使っていろいろと実験してきたのですが、完璧な接客をやろうとすると人間味を失うどころか、ロボットの姿で完璧な接客をするとですね、ロボットになってしまうのです。

 今までの良い接客って、AさんがやってもBさんがやってもCさんがやっても、まあまあちゃんとしたサービスが提供できて、昨日も今日も同じサービスが提供できて、お客さんに対してすごく丁寧に作られた言葉で接客ができるみたいな。そういう接客で我々はカフェとかの店員さんたちに日頃癒されてきたわけですけど、同じことを「OriHime」でやると、途端にAIのようになってしまって、人間味を失ってしまうのですよ。

 ここがけっこう面白いところで、生身の人たちはマニュアル化された接客というものを良しとしてきたんですが、意外とこの「OriHime」というビジュアルで接客する際においては、どれだけそれを崩せるか? っていうある意味、人間くさいコミュニケーションの方が、相手にちゃんと人であることも認識されますし、より会話しやすいっていうことが生まれる、つまり良い接客かもしれないと。

 生身の体というインターフェースで接するよりも、「OriHime」を使うことでより人間味を発揮できて、結果的に関係性が作りやすいというものを私の中ではずっと意識しています。

――確かに言われたらそのとおりですね。でもなんでそうなるんでしょうか?

 着ぐるみとは仲良くなりやすいですよね。そして我々は着ぐるみを着ると恥ずかしげもなく踊れたりもしますし。それと似た、着ぐるみ効果というものももちろんあります。

 その上で、分身ロボットカフェという目的がある中に、非目的なコミュニケーションをあえて設計しているっていうのがあって、テーブルの上に意味なく「OriHime」が来たら気まずいじゃないですか。普通に来たら、ここはおしゃべりするカフェですって言われても、「え〜っ」ってなる。

 だけどさきさんとか、うちのカフェで働いているメンバーたちはちゃんとメニューの説明もして、オーダーを通してそれでオーダーを通した後に、「カフェのことで何か聞きたい事があればお聞きください」みたいな感じでちょっとしゃべるってなると、そこにいる理由ができた後のボーナスタイムみたいなもので、自然に会話ができるんですよね。

 ここは設計としてけっこう重要だと思っています。

 多分「OriHime」で働く人たちからしても、お客さんからしても、「なんでここにこいつが居るの?」っていうふうに思う人が急に現れて、会話しようっていったって会話なんか絶対に盛り上がらなくて。

――なんかその辺は、メイドカフェに近いなって気がしました。

 そうですね、けっこうそれに近いかもしれません。ただメイドカフェの場合は、メイドカフェというカルチャー的にそこの人たちと会話するっていう事を目的にしてるんだけど、私は会話を目的にはしたくないなと思っていて。あくまで店員のような形でそこに居るんだけど目的があるからそこに居て、テーブルになぜ居るかというと、接客をしてドリンクのオーダーを通すという仕事があるからそこに居る。そしてオーダーを取った後の余地の時間だから会話が成り立つんだと思っています。

 私は基本、人間嫌いなんですが、人間が怖かった時期がある。それで一時期、人工知能の研究もやっていたんですが、なぜ人間が怖いんだろう? って思うと、目的がはっきりわからないからなのですね。

 我々が怖い人間って目的がわからない、わけわからない人で、道端でいきなり声かけられたら怖い。その人の目的がわからないからです。で、逆にいうと目的がわかっているとですね、我々はけっこうフレンドリーになれるんですよ。

 だからなぜここにその人がいるのか? だとか、なぜ話しかけてきたのか? がはっきりしていると大丈夫です。道端で話しかけられても、「これ落としましたよ」と声をかけられたら、親切な人が落とし物を拾ってくれたんだなと。相手の目的がわかったら安心しますよね。

 そこはちゃんと「OriHime」というロボットを使う時でも、オンライン世界でもそうですけど、何かこう話しかけるきっかけっていうのは目的から始まると思っていて、そこもしっかり作っていこうとは思っています。それにより我々は、もっと人と仲良くなるコストを下げることができるんじゃないかなと。

自分が居ることを否定されない“リレーション”のために

――今後「OriHime」が目指すものは何でしょうか?

 “リレーション(関係・つながり)”だと思っています。私たちは何のためにコミュニケーションをするのか? とか、コミュニケーションの目的とはなんだろう?とか。

 はじめ「OriHime」ってコミュニケーションデバイスと言っていたのですが、本当にやりたいことはコミュニケーションだろうか? と考えると、コミュニケーションとはある意味必要なことだけを伝えるのもコミュニケーションなのですよね。私が今取材を受けたりするのもコミュニケーションですし、電話をして家族に用事を伝えるのもコミュニケーション。でも、用事だけじゃないなと思ったんですよね。

 電話って基本要件を聞かれるので、よっぽどその人と会話することを目的にしていないと長電話しないし、どんな人であっても「なんでかけてきたの?」と聞く。なのでそういう電話とかって、目的以外のコミュニケーションってしづらいなと思っていて。

 「OriHime」で何を目指してるかっていうと、リレーションだなと。だから関係性をどう作れるかだとか、体を動かすことができなくなった人が社会とどうつながれるのか、とか。

 自分がいることを否定されない。なぜここにいるのかということを問われない場所が居場所だと思っていて、そういった場所を一人一人が見つけていけるようなものを作るというのが、私の考える“孤独の解消”です。

 でも無理矢理に「OriHime」パイロットたちにお客さんと仲良くなれとは言いたくないし、お客さんにも仲良くなってくださいと言うのも変だなと思っているんで、これはどちらかというと場の設計というか、要はツールとお店の設計によって自然発生的にそうなればいいなと。

 この「OriHime」や「分身ロボットカフェ」に関しては、まだまだ私の中では未完成ではあるんですが、お客さんと会話することによって、まあちょっとそんな病気があるんだということを教えてもらったりとか、何か外でその病気を見た時に「そういやこのカフェで出会った〇〇さんという人はこういう病気だったなー」というように気付くことができたり、そのことで寝たきりの友達が1人増えたり。そうすると自然に理解が広がっていくのではないかと思っています。

 ちょっと一旦ミュートします。

目的の駅に着いた吉藤オリィさん、タクシーから降りて駅の中へ。

体が動かなくても楽しい未来を思い描けるボディシェアロボット

 すいませんお待たせしました。蔵王の駅におります。今月は仙台あたりにご縁があるみたいで、今回で3回目です。

――このZoomインタビューを通して、僕らも離れた場所から移動の大切さを感じています。今後は「OriHime」持って移動する以外に考えられていることはあるんですか?

 2013年か14年くらいからやっているもので、「NIN_NIN」というプロジェクトがあって。これまだ製品化はしないんですけど、実験的にいろいろなことをやっているもので、「OriHime」を肩に乗っけるんですよ。

「Body Sharing Robot "NIN_NIN"」公式サイト

 ぜひ「NIN_NIN」で検索いただきたいんですけど、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」っていう、肩にうまくフィットするような忍者型の「OriHime」を作っていて、そのコンセプトっていうのがボディシェアリングであり、“友人を着る”というものです。

 要はまとうことができるので、例えば自分の孫とか、子供が走ってどこかに行ってしまうことがあるかもしれないけど、そこに例えば、おじいちゃんとして孫の肩に乗ってあげることによって、安全性が確保されるかもしれないし、どこにいるかもわかるかもしれないし、何ならうまくアドバイスをすることによって一緒に冒険をすることができる。

――なんか『攻殻機動隊』じゃないですけど、オペレーターと一緒に行動するみたいな感じですね?

 そうですね。これを使うと便利で、私は中国に行っても中国語がわかりませんけど、こういうのがあると中国語を話せる「OriHime」パイロットに入ってもらうと通訳してくれますよね。

 しかもこれの面白いところはそこにその人がいるということが周囲に解るというところです。

 つまりトランシーバーだったり、イヤホンだったりっていうと、あの人ひとりでぶつぶつ言ってるなという感じになるけど、この「NIN_NIN」とか「OriHime」はオープントーク型のスピーカー出力で、中の人の声とかも大きく出力されるのもあって、そこに人がいると周囲に認識される。

 これを着けていると普通に街を歩いていても、いろんな人が声をかけてくれますね。この“声かけてもらえる感“というのも、これからの時代のUIとして重要になってくると思っていて。私、先日アブダビにいましたけど、向こうの人たちってよく話しかけてきたりするし、目があったりすると「ハイ」と言うじゃないですか。「どっから来たの?」とか普通に言うけど、我々日本人は日常で生きてて、知らない人と会話をすることはまずないですよね。

 コンビニの店員にも「どっから来たんですか?」なんて言われない。国によってですけど、日本人はけっこうシャイなので。ただこういう仲介として、肩にロボットを乗っけていて、それがしゃべったりしているとさすがにスルーできないのか、コンビニの店員もタクシーの運転手さんなんかもけっこうしゃべりかけてくれるんですよ。

 当然ロボットから店員さんに話しかけることもあるわけで、そうすると店員さんもロボットである人に話しかけるっていうコミュニケーションによって、何かしら会話が弾んだり、受け入れられていったりっていうことがあります。

――最近は子供の見守りをどうするかが問題視されていますけど、このツールがあればセキュリティーにも役立ちそうですね。

 それこそ核家族で親が忙しい場合でも、おじいちゃんおばあちゃんが孫のために何かしてあげる。これはとても重要で、おじいちゃんおばあちゃんも、意味もなく孫と会うためだけに家に行くと、息子や娘から怒られるわけですよ。なんで急に来るんだ、と。

――孫と一緒に通学できるって、おじいちゃんやおばあちゃんも楽しそうですね。

 目的があるから、人はコミニケーションする。今の日本人はだいたいが核家族になってますけど、自分の子供が家を出て家庭を築いたら、そこに親は入りにくいんですよね、自分の家じゃないから。「今日何の用で来たの?」と言われたらちょっと寂しいですけど、そうなるんですよ。

 これ、私、昔から「ルンバ」が出た時から言ってて、AIロボットに掃除させている場合ではなくて、遠隔掃除ロボットを作っておじいちゃんやおばあちゃんに操縦をさせなさい、と。そうすると、おじいちゃんおばあちゃんも子供の家を掃除に行くという目的ができる。

 はじめはオートモードで掃除すればいいんだけど、途中でそのオートモード中の画像に、なんとなく子供の姿が映ったら、止まって子供と遊んだりとか。そうやって子供の様子を見とくこともできるし。用事があるからそこに居られて、そこに居られるからコミニケーションが生まれるんですよ。それができると関係性が生まれると思っていて。

――確かにそうですね! 楽しい未来の話ありがとうございます。ぜひそれを実現して欲しいです。

 「分身ロボットカフェ」というのは、障害者のための場所ではないんです。寝たきりの人が働ける場所であり、私もそうだし皆さんもいつか体が動かなくなるので。要は我々の豊かな老後のためにというか、我々もいつかは寝たきりになるというのを前提に、寝たきりの先を考える先輩たちとともに、それを研究する場所が「分身ロボットカフェDAWN ver.β」です。

 ぜひまたリアルでお会いしましょう。

吉藤オリィ氏は、約1時間にわたる移動Zoomインタビューを終え、「人類の孤独の解消」のため次の目的地に向かわれました。

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