「たてもの」と「まち」のイノベーション第7回

東大生が考える「もしも東京で大災害が起きたら」

文●ASCII

提供: 清水建設株式会社

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情報を与えられると避難行動は変化する?

── あらためて、今回の社会実験で想定していた課題について伺えますか。

増田 もともとは、2019年台風19号の際、氾濫危険水位まであと53cmまで迫っても、364人中29人しか避難行動をとろうとしない、避難しないというところがひとつの問題です。もうひとつは避難したとしても、東京のような大都市では河川に架かる橋や高速道路の入り口などで渋滞が起きてしまい、避難がうまくいかないことがあると考えられます。避難しないという問題、うまく避難できないという問題、その2つに取り組むというのが連携の主旨でした。

東京大学 交通・都市・国土学研究室 増田慧樹氏

── まずひとつに正常性バイアスがあって、避難しようとしない。

増田 それに対してこの実験では、浸水継続時間の長さを知るとか、浸水時の深さを体感してもらうことで自分の地域の災害のリスクを知って、情報を知った前後で意識が変化するかどうかということを調査したんです。

── 結果としてはどうだったんですか?

増田 実験期間中に4回アンケート調査を取ったんですが、全体で見ると、実験前後で避難率(「避難する」と答えた人の割合)が増加するグループと、低下するグループが見られました。

── えー! なんで情報を与えられて低下するんですか?まったく逆みたいな気がしますが。

増田 浸水継続期間が長い地域と短い地域に分けたグラフを見ると、短い方に住んでいる人の避難率が下がっていました。

── ダメージが少ししか想定されない人にとってはタカをくくる判断が早いということですかね。めちゃくちゃ意外ですね。

増田 避難の意思決定に影響を与える原因については、現在分析を進めているところです。情報が入ったことで垂直避難とか、家の備蓄をきちんとしようという意識に変化するかと思っていたんですが……。

── 以前、とある交通事故の調査で、判断の遅い人ではなく、判断の早さにばらつきのある人の方が事故に遭いやすいという話があったんですが、それに似た発見だと思います。

増田 「思ったよりも避難が大変ということを知った」という話もありました。

── 大変だから避難しようと思わないと。

大村 江東区から臨海部に行くのは交通が弱いルートなんです。大島四丁目から豊洲まで行くのはいまのところ車しかない。いま地下鉄8号線の延伸が検討されてますが、大島から豊洲までタクシーで移動しても20分くらいかかってしまいます。電車も災害時は計画運休が多くなります。事前避難として、たとえば「実家のある近県等に移ってください」などと3日前程度から伝える必要も出てくるかと。

── 情報の質に関する議論もあるんじゃないですかね。一般人にただ情報をまいても混乱するだけなので「こう動いて」という的確な指示が必要とか。

増田 あると思います。災害に関心があって普段から話しあっているような人と、そうではない人で情報を与えられたときの変化は違うと思うので、その違いは重視しなければいけないと。

── 広告やマーケティングの発想に近いですよね。どんな情報をどうやって出して、行動を変容させるかという。

増田 実際、交通行動のモデルはマーケティングの消費者行動モデルと同じようなモデルが使われているところもあるので、かなり近い部分はあると思いますね。

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