北京冬季オリンピックの開幕とともに、徐々にデジタル人民元(e-CNY)の姿が明らかになってきた。
オリンピックで中国入りしている選手やコーチ、メディア関係者らを対象に、中国政府は、デジタル人民元を利用してもらう取り組みを進めている。
利用する方法は、スマートフォン、プリペイドカード、リストバンドの3種類がある。
2022年2月15日のロイターは、北京オリンピック関連で、1日に200万元(約3646万円)の決済がデジタル人民元で行なわれたと報じている。
Suicaを思わせるハードウェア・ウォレット
米ウォール・ストリート・ジャーナルは2月16日付で、ジン・ヤン(Jing Yang)記者によるデジタル人民元の体験リポートの動画を公開している。
記者は銀行のATMを訪れ、20米ドルの紙幣をATMに入れる。
すると、「e-CNYを受け取ってください」という音声が流れ、チャージ済みのカードが戻ってくる。
チャージ済みのカードは「ハードウェア・ウォレット」と呼ばれている。
海外から中国に入国したオリンピックの選手団やメディア関係者らの行動は制限されており、オリンピック・バブルと呼ばれる区域の中でのみ行動できる。
バブル内にはレストランや土産物店、コーヒースタンドなどもあり、ほぼ全店舗でデジタル人民元で決済が可能だという。
ハードウェア・ウォレットの場合、決済端末にカードをかざすと決済が完了する。カード型のSuicaを思わせる使用感のようだ。
中国政府の狙いは
レポートは、中国人民元が抱える課題で締めくくられている。記者が指摘する課題は、やはりプライバシーだ。ヤン記者は「当局は、すべての取引を見ることが可能だ」と指摘する。
このレポートによれば、オリンピックで入国している外国人たちは、公式の決済システムになっているVISAを使って決済している人が多いという。
冒頭で触れたように、北京オリンピック関連で、1日約3600万円の決済がデジタル人民元で行なわれたという。
この数字が中国政府にとって満足のいく結果だったかどうかは、判断材料がない。
ただ、ヤン記者のレポートを含め、外国人にはあまり人気がないと指摘する欧米の報道は複数ある。
米ドルに依存する中国の貿易
北京オリンピックというタイミングで、外国人に対してデジタル人民元の使用を公開した中国政府の狙いはどこにあるのだろうか。
やはり米ドルの覇権に対して、人民元の基軸通貨化を目指す中国政府にとって第一歩となる動きとみるのが妥当だろう。
たとえば、アジアや中南米、アフリカの国々に旅行や出張で出かける場合を考えてみると、事実上の基軸通貨としての米ドルの存在感の大きさが理解できる。
こうした国で、日本円をその国の通貨に交換しようとしても、受け付けてもらえないことが少なくない。
このため、通常は米ドルを用意して渡航する人が多いはずだ。
米ドルであれば、世界中どこに行っても、たいていの両替所で交換してもらえるし、ホテルなどで米ドルでの支払いを受け付けてくれることもある。
世界中で行なわれている貿易や金融取引でも、やはり米ドルを介した取引が多いそうだ。
中国も例外ではなく、主要国の中では、貿易においてドル建てで決済している比率が最も高い国との統計もある。
米ドルの調達がスムーズにできなければ、中国の経済は成り立たないのが実情だろう。
政治面で米中の対立が深まる中で、中国がデジタル人民元の発行を急いだ背景には、中国経済の米ドルへの高い依存度がある。
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