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MacのCPU変更がついに発表! 「WWDC 2020」特集 第11回

ハードもソフトも生まれ変わるMacへの期待が膨らむ

【WWDC20 基調講演】アップル、今後の大きな変革を暗示

2020年06月24日 16時00分更新

文● 柴田文彦 編集●飯島恵里子/ASCII

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「Apple Silicon」激動と呼べるほどの大きな変化の到来

 そして、登場の順番や、割かれた時間はともかくとして、今回最もインパクトの強かった発表が、MacがApple Siliconを採用するというものだろう。簡単に言えば、今後のMacは、英ARM社が開発したコアを利用してアップルが自社設計したCPUを、インテル製のCPUに代えて採用するということだ。つまり、iPhoneやiPadと同様のしくみとなる。

 これまでにもMacは、2度の大きなCPUのスイッチを経験してきた。1984年に登場した最初のMacは、モトローラ製のMC68000というCPUを採用していた。それからしばらくは、いわゆる68系と呼ばれる68000の後継機となる同系列のCPUを採用し続けていた。具体的には68020、68030、68040といったものだ。それが10年後の1994年には、モトローラとIBM、そしてアップル自身が共同開発したPowerPCへの切り替えることになった。そして、そこからさらに12年後の2006年には、PowerPCに見切りをつけて、Windows PCと同じインテル製のCPUに切り替えた。

 言うまでもなくCPUは、コンピューターの根幹をなす部品であり、その性格をかなりの部分決定するような要素と言える。1つの機種で、これだけ何度もCPUを乗り換えてきた製品は、他にはほとんど類がないだろう。Macが登場以来36年間もパソコンの第一線を走り続けてこられたのは、こうしてCPUの変更という大きな変化を乗り越えてきたからこそかもしれない。それでいて、Macという基本的なアイデンティティを維持し続けることができたのは、奇跡に近いことではないかと改めて思う。

 それはともかくとして、Macが新たなCPUを求め続けてきたのは、言うまでもなく常に性能向上を目指してきたからにほかならない。今回のApple Siliconの採用も、基本的にはそういうことだ。アップルでも、性能向上と低消費電力の実現が両立できることを強調している。確かに、これまでのiPhoneやiPadでの実績を考えれば、納得できる話だ。

 とはいえ、真の狙いは、アップルが自社設計のCPUに切り替えることで、CPUの選択に関して完全なコントロールを得ることにあるだろう。これまでは、CPUやGPUの供給をインテルやAMDに頼らざるを得ず、いわば他社の都合によってマシンの心臓部の選択が左右されていた。それでは、コスト、納期、性能、といったあらゆる面でアップルの思い通りにならない部分が出てくる。しかも、インテルやAMDの製品は、他のパソコンメーカーも採用しているわけで、そこに独自のメリットを打ち出すことができない。それでは完全に独立したコンピューターメーカーとは言えないのだ。

 アップルでは、インテルからApple Siliconへの完全な移行に約2年をかけるとしている。その間にリリースされる新しいアプリは、インテル上でもARM上でも動作するよう、両方のCPU用のコードを含むユニバーサルアプリとしてリリースすることができる。これは以前にもPowerPCからインテルに移行する際に取った手法だ。アップルは今回の方式をUniversal 2と呼んでいる。

 また、すでにリリース済のアプリを、Apple Siliconを搭載したMacで動かす手段も提供する。こちらは、一種のエミュレーターのようなものだが、コードの変換はアプリのインストール時にまとめて実行されるため、インストール後のアプリは、ネイティブアプリと同様の速度で動くことが期待できる。またインストール時の変換が難しいコードの場合には、実行の直前に変換することも可能な、柔軟な設計になっているようだ。これと同じような手法も、PowerPCからインテルへの移行時に採用されていた。当時のものはRosettaと呼ばれ、PowerPCアプリをそのままインテルMac上で動作させることができた。今回の仕組みは、やはり「2」を付けてRosetta 2と呼ばれる。

 また、今回は軽く触れられていただけで詳細は不明だが、Apple Siliconを搭載するMac上では、iOSやiPadのアプリをそのまま実行することも可能になるという。アプリのインストール方法やライセンスがどうなるのか、現状ではよくわからないが、これにも大いに期待できそうだ。

 MacのCPUがインテル製でなくなると、Windows PCとの根本的な共通点がなくなってしまう。つまり、Boot Campのような薄いレイヤーの追加でWindowsを動作させることはできなくなる。おそらくApple Silicon用のBoot Campが提供されることはないだろう。ただし、仮想環境であれば、エミュレーションによって他のCPUのOSやアプリを実行することも可能なはずだ。ただし、その実現にはしばらく時間がかかるだろうと予想していた。しかし、今回のキーノートの中には、その予想を裏切る嬉しい驚きがあった。なんとParallelsは、すでにアップルと協力して、Parallels DesktopのApple Silicon版を作成していた。ほんのちらっとデモされたのはLinuxだったが、Windowsを動作させることも可能だと思われる。これで、Apple Siliconに対する不安の1つが払拭できた。

 すでに述べたように、今回のCPU変更は、Macが単独で新たなCPUにスイッチするのとはわけが違う。MacがiPhoneやiPadと同じCPUを採用するわけで、これまでとはまったく意味の異なるものとなる。それがユーザーにとってもたらすメリットの真価は、これから徐々に明らかになるだろう。いずれにしても、CPUの変更、OSの進化によって、これからMacを取り巻く環境は、激動と呼べるほどの大きな変化の時代を迎えるに違いない。それは、Macにとって誕生以来の大きなものとなるだろう。ユーザーとしては大いに期待して見守りたい。

 

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