新サービスのコンセプト、開発やイベントの舞台裏をがっつり聞いた
卒業から1年!玉川さん、スタートアップを楽しんでますか?
Endorseは異端児?新サービスの開発コンセプトとは?
ASCII大谷:新サービスの話に前に、まずソラコムのサービスって、ソラコムのロードマップありきなのか、顧客のニーズやリクエストありきなのか、そこらへんを教えてください。
玉川:長期的なプランニングはある程度していて、今年だとグローバル展開というのが決まっています。どのくらいのタイミングで、どの程度のリソースを使うかが決まっていて、四半期ごとの動きはおおまかに決まっています。一方で、お客様のフィードバックはどんどん入っていくので、自分たちが予測していなかったもの、すぐやったほうがいいものは増えていきます。なので、長期的なプランはありつつも、優先順位が高いモノは順次入れ替えていくという感じです。
ASCII大谷:どれくらいのタイミングでやっているんですか?
玉川:イテレーションプランニングと言いますが、今だと2週間に1回で優先順位を見直していますね。とはいえ、長期的なプランニングと短期的なフォーカスという両者のバランスは一番難しいところでもある。そこはレベル高く、やりぬきたいと思います。
ASCII大谷:そういった中で、先日のSORACOM Canal/Direct/Endorse/Funnelが出てきたと。
玉川:はい。SORACOM CanalとSORACOM Directはある意味自然の流れ。9月のリリースの時から、閉域網でつながるというのは匂っていたじゃないですか(笑)。当時は実装を明らかにしてませんでしたが、SORACOM CanalはAWSのVPCピアリングを使っています。SORACOM Directに関しても、日立製作所とつないでいたという話はしていたと思うんですが、それがSORACOM Directだったということです。AWSの外につなぐものがSORACOM Directです。
ASCII大谷:今から考えると確かにそうですね。
玉川:IoTのセキュリティを考えると、今までなかったピースではあるんです。個人的には、IoTはクラウドのパワーがないと実現できないと思っているし、そのためにはネットワークのセキュリティが重要。モバイルがクラウドに直結されて、クラウドのパワーを使い放題になるというのは、実は新しいコンセプトで受け入れられやすいと思っています。一方で、SORACOM FunnelはSORACOM Beamの延長線上です。
ASCII大谷:安川さんも言ってましたね。
玉川:はい。汎用プロトコルを使い、Webサービスに対して、安全に、かつ楽にデータを放り込めるというSORACOM Beamは好評で、これを使ってDynamoDBやKinesisにデータを送るというニーズが高まっていました。で、お客様から問い合わせが来て、AWSに強いメンバーが対応するんですが、デバイス側に入れる情報やプログラムを指定しなければならないので、正直面倒くさい(笑)。だったら、クラウド側で対応してあげればいいじゃんという話でFunnelのアダプタという概念が生まれました。どうせだったらKinesisだけじゃなく、AzureのEventHub用のアダプタも作ってしまえという流れです。
ASCII大谷:最後にSORACOM Endorseですが、一番変わったサービスだなと思いました。
玉川:SORACOM EndorseはSIMの利用価値を拡げるためにビッグシンクしたもの。JWT(JSON Web Token)を使って、SORACOMが認証局的な役割をできたら、面白いねというアイデアです。とはいえ社内でもWiFiオフロード以外、あまりユースケースが出てこなくて、「でも、なんかに使えそうだよね」といいながら作ってました(笑)。その割には発表したら、一番反応がよかった。とても意外です。
ASCII大谷:先日の登壇の時は、「通信できる鍵」みたいな言い方をしていたじゃないですか。確かにいろいろできそうだけど、なにに使えるかは難しいですね。
玉川:今となってはだいぶアイデアは出てきてますし、モジュール価格が下がってくれば、車の鍵でもいいかなと。通信できる鍵なら、盗まれた時にセンターのオフにしてしまうとか、所有の概念をクラウド側で持たせてもいいし、ブロックチェーンと連携したら課金もできそうだなあとか。そのほか、QRコードとの連携とか、スマートホームでの利用とか、いろいろあります。
ASCII大谷:そういうアイデアってどんなところから出てくるんですか? まあ、「呑み屋で話している時に……」という答えを誘導しているようなもんですが。
玉川:(笑)。おっしゃるとおりで、新サービスの位置づけにしろ、進化の仕方にしろ、みんなでランチしてたり、呑んでワイワイして、業務から良い距離感で離れている時に出てくるんですよね。「これっていけるよね」「実装こうしたほうがいい」「こっちの方がクールでしょう」みたいな感じです。
ASCII大谷:そこらへんはAWS時代と変わらないんですね。
玉川:はい。4つの新サービスのうち、Canal、Direct、Funnelは着実なサービスです。Endorseはちょっと浮いている非線形なやつ。4つのうち25%という意味では、経営者視点でバランスがいい。80%くらい異質になると、危ないと思います。
ASCII大谷:エンジニアが突っ走ると「尖りすぎたもの」、お客さんのニーズだけでできると「手堅過ぎるもの」ができる傾向にありますよね。
玉川:そういう意味では、今のメンバーはバランスがいいですね。
チーム内で険悪なムードになったのは「あれ」の件
ASCII大谷:さて、これまでいい話がいっぱいでしたが、大変なこともそれなりにあるのかなあと。
玉川:大変なことと言えば、サービスの名前付けですね(笑)。名前付けはアートの世界、こだわりの世界なので、誰が正解という話ではない。一番、険悪なムードになりますね。今回もめたのはSORACOM Directですね。
ASCII大谷:SORACOM Directなんてもめるんですか? 一番、素直な名前じゃないですか。
玉川:わかりやすいサービスだから素直でいいという意見と、素直すぎるという意見があって、メンバー内ではDirect派とDock派でもめたんです。何日間も話し合って、結果がでなかった。でも、まだ発表していないので後日明らかになるんですけど、あるアイデアによってその解消されたんです。ただ、お客様のフィードバックで「Canalはクールですね。でも、Directは正直がっかりしました」というのがありました(笑)。
ASCII大谷:でも、名前付けってしょうがないですよね。
玉川:過去にはs1.smallとか、s1.mediumとかももめたんです。何日も決まらなかった。でも、個人的に思ったのは、意見をぶつからせたほうが絶対にいいということ。痛いディスカッションもお互いにリスペクトがあるからできるし、やっぱり少しずつよくなっていくんです。基本、僕は合意でやっていきたいんですけど、介入する時もあります。
ASCII大谷:そういった話も含め、現在のチームはどう分析しますか? 開発力が高いのは本当にみなさん理解しているとは思うのですが。
玉川:ソラコムを立ち上げる時に、必要なパーツとスキルセットを洗い出して、そこに人材を割り当てていった。このパーツに関してはこの人がいれば作れちゃうよねという人が来てくれたし、みんな期待値の倍くらいの仕事をしてくれていると思っています。それぞれの自分の仕事をした上で、遊びを盛り込む余裕すらある。子供が遊びを書くような感じで、「こんなに作っちゃいました!」というのがありますね。
ASCII大谷:いいエンジニアって時間の使い方がうまいので、空いた時間をクリエイティブな作業に当てるんですよね。
玉川:あと、やってみて失敗したことでも、みんなが文句を言わない。いやみすら言わないというカルチャーを徹底しているので、気持ちよく失敗できる。みんな思い切りがよくなった感じがします。
ASCII大谷:サービスインしてからは運用も課題だと思うのですが、いかがですか?
玉川:ありがたいのは、うちはリリースしてから1回も障害を起こしていないので、そこの労力がまったくない。サポートや謝り侍も必要ない。AWSの品質やサービスレベルが上がっていることもさることながら、AWSを熟知しているエンジニアが自動復旧や自己組織化の施策を進めていった結果として、運用保守部分の負荷がかかっていない。エンジニアのレベルが高いからこそできたと思います。
ASCII大谷:先日のイベントでも「運用コストの削減は進めていく」という話が出ましたが、そこらへんはまだ下げられる余地があるんでしょうか?
玉川:規模が大きくなると、運用保守のコストは一定以上に上がっていくと思うんです。仮に運用のコストが30%だとしても、システムが複雑になっていくとどんどん上がっていく。われわれの場合は、それを下げていくことができる。売り上げが上がっても、運用コストの比率は下げていきたいなと思っています。これは単純にクラウドの部分だけではなくて、SIMのパッケージの管理や運用のような泥臭いオペレーションもテクノロジーで解決できると思っています。
ASCII大谷:外から見ていてすごいなと思うのは、その部分。一流のクラウドエンジニアが開発・運用しているのは理解しているのですが、在庫や物流が必要なSIMのビジネスを難なくオペレーションをこなしているのはさすがだなあと。
玉川:われわれイベントも得意ですが、オペレーション得意なのかなと思っていて(笑)。少人数でもきちんと回せるスキルやリーダーシップを持っている多能工なメンバーなので、効率的なチームが作れます。だから、玉川が講演落としそうでも、安川や片山がフォローしてくれる。
ASCII大谷:名古屋から来るのが送れても、ちゃんと片山さんがフォローしてくれると(笑)。