Webコンテンツで重要なのは見出しだ。ニュースサイトでもグーグルでもTwitterでも、ユーザーは数十字のテキストで読む価値があるか判断している。コンテンツが魅力的でも見出しが響かなければ届かない。
2012年に刊行した書籍『Webライティング実践講座』では、見出しを以下の3つに分類した。
SEO見出し
検索エンジンに「受ける」ことを狙った見出し。検索の動機になった情報需要に対して、的確な見出しを付けたコンテンツを供給する。検索ボリュームと検索順位に応じた流入が継続的に期待できる。ちなみに、検索ボリュームが大きいが、競合の少ないキーワードの組み合わせは、リスティング広告よりもメディアの領域である。SEO見出しで継続的な集客を期待できる。
煽り見出し
ソーシャルメディアで「目立つ」ことを狙う見出し。常識を覆す見出しを供給することで情報への需要を作り出す(炎上マーケティング)。ソーシャルメディアの情報は次々に消費されるので、瞬発力のある流入を期待できる。SEO見出しのエッセンスを含めれば、継続的な流入も生み出せる。
要約見出し
コンテンツの「わかりやすさ」をサポートするための見出し。ある節の主張を短い言葉で表現し、見出しを順に読むだけで概要を理解できることを目指す。集客には不向きだが、記事タイトル(title要素)または大見出し(h1要素)に即したコンテンツであることをh2要素などでマークアップしてSEO効果を狙ってもよい。
第4の見出し「ため口見出し」
ASCII.jpの姉妹サイトである「週アスPLUS」で、昨年終わりから3本の記事を執筆した。
3つとも米国の質問サイト「Quora(クオラ)」で面白かった質問と答えの概要に、説明を付けた簡単な作りの記事だ。なれなれしい感じの見出しをあえて付けたのは、第4の見出し類型として「ため口見出し」があるのではないかとの仮説を立て、効果を検証したかったからだ。
結果として「Gメールは1人15GBの容量なんて確保してないらしいよ」と「いくつ知ってる?グーグルのマイナーな機能」は30万PVを超え、1000〜2000以上のFacebookいいね!を獲得した。情報ニーズが少なそうな「ウィキペディアの創設者って、たぶん今暇なんだと思う」は約2万PVと読まれた数は少ないが、300いいね!を獲得した。週アスPLUSプロデューサーのありのPによると、いいね!が増える速度は他の記事よりもずっと速かったという。「ため口見出し」が効果的であることは実証できたと考えている。
「ため口見出し」とは何か。私が「妙になれなれしい見出し」で読まれる記事を量産しているらしいと耳にした週アスPLUSのスタッフが見よう見まねで、私から意図を聞くことなく書いた記事と比較することで「ため口見出し」の効果を説明しよう。
- フリーITエンジニアは賃貸もお得に 仕事紹介プロシートなら仲介手数料が無料だって
- スマホの通話を録音するBluetoothヘッドセット Skypeもいける『Bluewire』が怖いけど便利そう
- 「ちょっとまて×2 グーグルさん、ロケーション履歴てなんですのん?」
なれなれしさの程度は似たようなものだが、ありのPの「ちょっとまて×2 グーグルさん、ロケーション履歴てなんですのん?」に至っては5万PV読まれたものの、70いいね!しか獲得できなかった。敗因は、ため口見出しに欠かせない「話者の転換」が欠けていたから、というのが私の仮説だ。
シェアの再生産を促す「話者の転換」とは?
ため口見出しは、「煽る」ことで目立つのではなく、シェアされた記事がさらにシェアされることで、一度誰かの注目を集めた記事がそのフォロワーに拡散していくことを目指す。シェアの爆発的な加速に欠かせないのが「話者の転換」だ。
「Gメールは1人15GBの容量なんて確保してないらしいよ」という見出しを初めて見た人は「何だろう」と思って記事を読む。その人が「面白い」(あるいは誰かに伝えたくなるほど「くだらない」)と思ったとき、ソーシャルメディアのエンゲージメント動詞であるshareは「私はこの記事を読んで感情が動いたよ、フォロワーのみんなも読んでみて!」の意味になる。
「Gメールは1人15GBの容量なんて確保してないらしいよ」という見出しの話者は初め「週アスPLUS」であったり、執筆者の「中野克平」であったりする。ところが、フォロワーにいいね!を押したことが伝わったとき、「Gメールは1人15GBの容量なんて確保してないらしいよ」の話者は「週アスPLUS」でも「中野克平」でもなくなり、シェアした人になる。(私の発表)「Gメールは1人15GBの容量なんて確保してないらしいよ」に変わるのだ。
FacebookやTwitterでこの見出しを見て「おや?」と思った人が記事を読み、再びいいね!すると、話者はさらに別の人に変わる。こうして誰かのシェアがさらに別の人のシェアを生み、シェアの再生産が起きると、短期間に爆発的なシェアが獲得できるわけだ。
「Gメールは1人15GBの容量なんて確保してないらしいよ」「いくつ知ってる?グーグルのマイナーな機能」「ウィキペディアの創設者って、たぶん今暇なんだと思う」の記事が、どれも「私の小さな発見」の形を取っているのも理由がある。伝統的なメディアでよく使われる見出しは、この記事のように「読者よ、これが真実だ」と上から伝達する形をしている。一方でため口見出しは、ソーシャルメディアに構築された対等な関係性に着目した手法だ。上からではなく、横へ、横へ、対等な関係のコミュニケーションだから、「ため口」でなければならない。週アスPLUSのスタッフが真似で作った見出しは、対等な関係であるはずのフォロワーに向けた言葉としては宣伝風だったり複雑だったりして、そもそも話者を転換させてシェアしにくい。だからシェアがそれほど多くなかった、というのが私の理解である。
4つの見出しとAISASの関係
編集者として20年近く、見出し作りにはずっと苦労してきた。キャリアのひとつの到達点として、書籍で「見出しは3種類」と言い切ってみたものの、何か見逃していないかずっと不安だった。今回、見出しの第4の類型である「ため口見出し」がインターネット上の購買行動プロセスである「AISAS」(アイサス)との関係でも説明可能であることに気付き、見出し理論の完成度が高まった、と少し不安が収まった。
AISAS(電通が提唱)は、Attention、Interest、Search、Action、Shareの頭文字を取った造語である。何かの商品の存在に注目(Attention)し、関心(Interest)を持って検索エンジンで調べ(Search)、購入(Action)し、感想などをソーシャルメディアなどで報告(Share)する。実際の購買行動がこのとおりかはともかく、ある商品を知り、購入するプロセスではどれかが何かの順番で起きている。購入(Action)に見出しは付けられないが、残りの4つのプロセスはそれぞれ4つの見出しに対応して説明できる。
- Attention(注意)⇒煽り見出し 注目を集め、フックを作り出したいときに使う
- Interest(関心)⇒要約見出し 関心をフックに、理解を助ける
- Search(検索)⇒SEO見出し 知りたいニーズ満たし、納得してもらう
- Share(共有)⇒ため口見出し 何らかの感情が動いたことを仲間に伝えてもらう
SmartNewsやグノシーなど、ニュースのキュレーションアプリはソーシャルメディアでの話題を得点化してどの記事をどのユーザーに届けるかを判断していると言われている。ソーシャルメディアでの話題作りは、一般企業のプロモーションだけではなく、メディア企業にも必須になっている。伝統的な見出し作りのノウハウはメディア企業の財産だが、新しい見出しの形を模索していかなければ、一般企業とメディア企業の境目はなくなる危機感が私にはある。
検索エンジンからソーシャルメディアの最適化まで、Webコンテンツをどう作ればいいか分からない人向けにWeb Professionalで編集したのが『Webライティング実践講座 ニュースリリースから商品説明まで』だ。見出しから本文のあらすじ作り、ニュースリリースや商品説明といった具体的なコンテンツの制作方法を「型」として紹介している。第4の見出しがこの書籍の後で「発見」されたことを前提に、未読の方にもぜひ読んで欲しい。
Webライティング実践講座
ニュースリリースから商品説明まで
林 千晶、中野 克平 編著
中田 一会、井上 果林、小川 治人、君塚 美香、吉澤 瑠美 共著
- 定価:2,100円 (本体2,000円)
- 形態:A5(208ページ)
- ISBN:978-4-04-891217-4
- プロデュース:アスキー・メディアワークス
- 発行:KADOKAWA
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