技術が進歩しても「職人芸」は必要になる
――SF的な話でいうと、3Dプリンターで物体を転送することは可能でしょうか? たとえばスキャナー側にリンゴを置いてスキャンし、データを転送しますよね。それをプリンター側で受信し、細胞レベルで『印刷』して、スキャンしたリンゴとまったく同じものを出現させるような……。あるいは、設計図を共有するとか。
鹿野 「理論上はできますよ。ただ、コピーするにしても、日本とアメリカ間でコピーするなら意味があることもあるだろうけど、新宿と渋谷間だったら『持っていった方が速いな』となる(笑)。今でもできる現実的な応用は色々あり得て、設計図さえあれば作れるプラスチックのレアものというだけでも、いろいろなビジネスに使えると思います。SF映画の小物とか、武器とかがあるじゃないですか。あの設計図をノベルティとかデータで販売するとかね。ファンがそれを使ってコスプレで楽しむとか。
だから、アクセサリーとか、自分らしい一点ものを作るのに、3Dプリンターはすごくいいんじゃないでしょうか。何かちょっと部品が壊れた時に、データがあれば補修部品を作るなんてのも需要はありそうですね。あるいは自転車が趣味なら、自分がほしいちょっとしたパーツを作ってもらうとかね。そういうマイナーな一点ものを作れますよね。自分だけが欲しい細かいものといえばいいかな。今の基本的な用途はそこにある。
それに、3Dプリンターが普及すれば、写真を数枚撮っただけで、そこから簡単に3Dデータを出力するソフトも普及すると思いますよ。絶対にニーズがあると思いますし。ただ、そうやって作った3Dプリント物の品質はそれほど良くはない。そこを職人が補正するという需要はあるかもしれません」
――個人で持てる3Dプリンターが普及したとしても、やっぱり専門の人による『職人芸』みたいな技術の価値は変わらないと。
鹿野 「大きさが変わると印象は変わりますから。フィギュアを作っている人の話を聞くと、実物をそのまま小さくしてもダメなんだそうです。魅力的なものにならない。視点が変わるから、日頃は見上げるサイズのものを見下ろすと、違う雰囲気になる。そこを修正する必要があると。そういう職人芸は必要でしょう。データだからなんでもコピーできるみたいな気がするけど、それでユーザーが満足できるか? という話になると難しいよね。
どういうふうにビジネスにするかというと、社会情勢もあるし、使う人次第なところもあるけれど。たとえば『キンコーズ』みたいなところに3D出力屋さんみたいなものができて、自分でやったり、職人さんがやったりということは普通にありえるわけです」
――キンコーズの一部の店舗には3Dプリンターが置いてあって、(プリントサービスが利用可能になっています)。そんな凝ったものは作れないみたいですけど。
鹿野 「3Dプリンターという装置そのものが発展途上ですから。今は一色のプラスチックで単純な形しかできないけど、たとえばガンプラだって30年であそこまで進化した(笑)。接着剤なし、着色済みみたいな……昔から知ってる人だと、信じられないと思っちゃうような進歩ですよね。
ニーズがあれば、そういう技術は進歩するわけです。3Dプリンターでデカい自動車を作っちゃった人もいるし、大きいから絶対無理というわけでもない。飛行機やロケットなどの部品も、3Dプリンターで作ったほうが性能も高くコストも安い適切なケースもあるでしょう。3Dプリンタの技術が発展すれば、他の方法では作れない、合金や複合材料、傾斜機能材料みたいなものもできるようになるかも知れない。ただ、大量生産には向かない。少量しか必要ないんだけれども、高付加価値なものを生産する……ということに向いている本質は基本的には変わらないでしょう」
(次ページ、「3Dプリンターで臓器を作る難しさ」に続く)
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