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匿名アプリで秘密を打ち明けてみよう

2014年05月10日 19時25分更新

文● Selena Larson via ReadWrite

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Secret

嫌われ者から希望の星へと変革した匿名ソーシャルアプリ。

私は今まで、自分の秘密を誰かに打ち明けるなんてことは考えたこともなかった。

オンライン上で自分を表現したい欲求にかられることもあるが、ツイッターはあまりにもあけっぴろげだし、フェイスブックでするのもイマイチ気が進まない。例えそれがユーモアを交えた真実だとしてもやっぱりなんとなく恥ずかしいし、本当の気持ちを打ち明けるのも怖い気がする。だったらせめて匿名で投稿したいと思っている。

そこに現れたのが匿名ソーシャル・ネットワーキング・アプリの「シークレット」だ。その噂に釣られた私は、些細なことにも興味をそそられる技術記者の血が騒ぎ、真相が気になって仕方がない。企業家と投資家が火花を散らして熱く討論するみたいに、その噂話の真相を明らかにしてみたいと思うようになった(例えば、実は本当だったナイキのウェアラブル部門撤退騒動とかやっぱりデマだったエバーノートの買収話みたいに)。

シークレットは、高校のトイレの個室で聞こえてきた会話を想像してもらうとわかりやすい。誰が言っているのかもわからないし、信憑性も疑わしいのになぜか心に残る会話の数々。

シークレットが1月に登場してから、真っ先に飛びついた主な利用者は、時折噂話や皮肉が言いたくて仕方がない技術エリートたちやジャーナリスト、スタートアップ企業の創立者、フェイスブックもしくはグーグルの社員たちであった。マイ・シークレット・フィードは、連絡先のリストにある友達からの投稿と、友達が「いいね」を付けた投稿、自分宛ての投稿で成り立っているのだが、これがどうしようもなく無駄な情報の集まりと言っていいものだった。資金調達目当てやいかがわしい目的で使われていたり、故意に人を傷つけようとする最低な中傷や誹謗が延々とあったりと、非常に不愉快であった(仲のいい友人の陰口を見つけることさえあったのだ)。

しかし、ある時を境にその状況も大きく変わった。シリコンバレーやニューヨーク郊外のiPhoneユーザーたちがシークレットを利用し始めてから、シークレットは変貌を遂げたのだ。それまでの幼稚で未熟な姿から、より人間性を重んじた、感情のあるアプリに変化していった。その結果、祈りの言葉や愛の告白、がんになる危険性のない医療スキャンの画像を求める投稿が見られるようになったのだ。こうした情報こそが正真正銘のシークレットであり、一時は嫌悪感さえ抱いていたこのアプリに、私はいつしかどんどん惹かれるようになってきた。

もちろん未だに不愉快な投稿を目にすることは否めない。しかし、シークレットは確実に、良い結果をもたらす匿名アプリになりつつあるのだ。

シークレットの創立者たちの願いは、フェイスブックやツイッターだと発生しやすい友人や家族からの非難を心配することなく、ユーザーが安心してしかも匿名で発言できる場を提供することだ。このヴィジョンは、自殺を食い止めたとされるアプリで最も注目されているウィスパーと共通する。

3月に行われたサウス・バイ・サウス・ウエストで、シークレットの共同創立者デビッド・バイトウ氏はこう発言した。「良い人になる必要はない。その代わり他人に優しくしてあげられる気持ちが大切なんだ」。 それを聞いた私は、なんて甘い考えだと馬鹿にしていたが、実はよくよく考えてみると筋が通っていることに気が付いたのだ。自分の秘密を誰かに打ち明けたり、他人の秘密を共有する行為はカタルシス効果がある。しかし、それと同時に「他人の不幸は蜜の味」といった気持ちがどこかにあるのも事実なのである。


社会的アイデンティティの粉砕

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フェイスブックやツイッターといったソーシャルネットワークでは、たとえ偽名を使ったとしても、どうしても現実世界の自分というアイデンティティから逃れられない。なぜなら自分の考えや気持ちを投稿すると、友人やフォロワーたちにたちまち知られてしまうからだ。検索をすると自分が表示され、長年にわたってつぶやいた言葉や写真はソーシャルネットワークに保存されてしまう。そして例えその発言がくだらない、野暮なものだったとしても、永久に消されることは無い。

自社の製品やサービスにソーシャルログインを採用する企業が増えるにつれ、ユーザーの会話だけでなく、購入志向や動向、「いいね」までもがオンライン上のソーシャルデータの一部となってしまう。例えばフェイスブックは、すべての情報を統合し、広告で利益を得るために個人情報を使用する方針だ。ツイッターもフェイスブックを真似るという戦略の一環として、これと同じ方針をとっている。

匿名や偽名を使用するオプションもあると言われているものの、結局のところ、どんな会話もユーザー名と関連付けられてしまう。一方匿名アプリでは、ユーザー名を持つ必要すらない。投稿やコメントが自分自身と関連付けられる心配をすることなく、自分の気持ちを共有できる。そこに広がっているのは自分と顔も名前も知らない人たちだけの世界なのだ。

シークレットでは、匿名で好きなことを好きなだけ投稿することができる。自分の連絡先リストに載っている友達も「シークレット」アプリを利用している場合、自分の投稿は「とある友人」からの投稿としてその友達に通知される。もちろんコメントも匿名で残すことができる。コメント時には、各発言者を区別するための小さなアイコンが割り当てられる。このアイコンは、ひとつのスレッド内では同じものが表示されるが、別の投稿にコメントする際には別のアイコンに代わるため、自分がどんな秘密を共有しているのか、どんな投稿にコメントしているのかなんてことは誰にも知られることはない。

おまけにシークレットやウィスパーでは、アイデンティティを持たないので、インターネット履歴による広告に煩わされることもないのだ。


課題を乗り越える

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匿名アプリがインスタグラムやスナップチャットといったモバイルアプリと同じくらいの人気を獲得するとは到底思えないだろう。

iOS専用シークレットの評価はアプリストアでも非常に低く、米国のソーシャルネットワーキングでも97位と低迷している。それに対して、「シークレット」より一年前に発表された「ウィスパー」は、同ソーシャルネットワーキングでも35位という人気ぶりだ。

匿名アプリが直面している課題は、新規ユーザーの獲得と同時に、このアプリが決してバーンブック(他人への中傷ばかりを書いた本)のモバイル版ではないことを広く知ってもらうことだろう。不純で人を傷つける発言や悪意のある噂話の蔓延は、これらの匿名アプリを怒りをぶつける場としてではなく、息抜きの場として使用しているユーザーたちを遠ざけてしまうことになりかねない。

ポストシークレットは、匿名携帯アプリの運営がいかに難しいかを示す好例だ。ポストシークレットは元々、世界中の人々が抱える秘密をイメージや絵を添えてポストカードに書き、投稿するというアートプロジェクトだった。PostSecret.comはそのウェブ版であり、匿名希望者が自分の考えや気持ちをポストシークレットのブログに投稿し、サイト側(仲裁者)で適切と判断されたもののみが厳選され公開される仕組みだ。

ポストシークレットのアプリ版は2011年後半にリリースされ、ユーザーはモデレーターと呼ばれる仲介人を介してアプリに直接自分の秘密を打ち明けることができるようになった。アプリの価格は1.99ドルだったが、このアプリは非常に短命に終わった。ユーザーやモデレーター、創設者の家族たちへの脅迫により、このアプリは2012年1月をもって閉鎖せざるを得なかったのである。しかし、ウェブサイトの方は今日も運営が続けられている。

匿名アプリに求められるのは、道徳的な問題とプライバシーへの取り組みである。シークレットは、相手を傷つけるような投稿を削除し、ユーザーが不適切な投稿を通報できるよう設定することでこれらの問題に対処している。だが中にはこの対策では不十分だと考える著名人もいる。

先月、ネットスケープの創立者でシリコンバレーの企業家でもあるマーク・アンドリーセン氏は、ツイッターで匿名アプリを非難する発言を行った

その中で彼は、「興味本位でそんな遊びを始めると、最後に手にするのは失意と台無しになった人生だけだ。その結果後悔だけが残ることになる」と発言している。

この他にもシークレットは、ギットハブの有名エンジニアの退職騒動やそれにまつわる悪評の火付け役になったとして非難を浴びている。

シークレットやウィスパーがポストシークレットのようにならないためにも、悪意のある投稿が広まらないよう厳しく監視する必要がある。とにかく噂話というものは、その真偽に関わらずあっという間に広まってしまうものだ。その手助けをするようなプラットフォームであれば、すぐに噂話で埋め尽くされてしまうのは当然なのだ。


匿名制度を成功させるには

現代では、今までにないほどの消費者が、オンラインでのプライバシーに対して敏感になっている。匿名アプリがモバイル機器に参入するなら今まさにこの時であろう。

フェイスブック最高経営責任者のマーク・ザッカーバーグまでもがオンラインでの匿名性に関するアイデアを模索し始めていると言われ、シークレットとの「協議」を行ったとして買収の噂が持ち上がっている。

だが、もしもシークレットが人気アプリの座を目指すのであれば、個人化されたフィルタ機能を実装する必要があるだろう。例えば、「スリーサム」や「Yコンビネーター」といった特定の言葉やフレーズが、自分のフィードに表示されないようブロックすることができるような機能だ。その他にも、自分が投稿した際、友人への投稿通知をコントロールできる機能があれば、気兼ねなく秘密を投稿できる。

最終的には、自分がどんなタイプの投稿に興味を持つかを知ることで、シークレットを効果的に使用できるようになればいい。例えば、ポジティブな要素を含むものやユーモアのある投稿を好むのなら、ネガティブな意見は非表示にし、面白くない投稿をフィードの下部に、自分の好きなタイプの投稿は上部に表示されるように設定すればいいのだ。

シークレットの中には、興味のないトピックもあるし、フォローしたいトピックもある。こう思っているのは私だけではないはずだ。そんなユーザー向けに、トピックに検索やタグ付け機能が備われば、ユーザーは好きなシークレットをフォローし、自分たちで匿名サポートグループを作成することができるだろう。

世のお母さんたちを例にとって考えてみよう。育児で辛い経験をした人は少なくないだろうが、それをインターネット上に書き込むのは後ろめたいものだ。でもシークレットを利用すれば、親友に携帯メールを送るような感覚で、普段抱えている不満をぶちまけることができる。もちろん泣きわめく子供に対して愚痴を言ったとしても、それが非難されることはない。

自分のフィードが不快な内容ばかりだと、匿名アプリを馬鹿にしたくなってくるだろう。しかし私は、人間というものは匿名である時、優しくもなれるし同時に残酷にもなれるということに気づき、匿名アプリに興味を持つようになった。アプリにフィルター機能が付いて残酷な発言を一掃することができれば、匿名アプリは匿名性を保ったまま日記を公開できる夢のツールに変貌することだろう。


画像提供
トップ画像:Mack Male(Flickr より)、文中画像:Selena Larson の Secret アプリのスクリーンショット


※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちら


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