日本政策投資銀行によると、国内の小売業のEコマース市場は2011年時点で4.5兆円(前年比11.5%増)と、百貨店の市場規模(6.7兆円)の約7割の水準まで拡大している。政投銀では今後、百貨店の市場規模縮小が続けば、早い段階でEコマースの小売市場が百貨店の市場規模を超えると見ている。
かつて百貨店が小売業界で「王様」として君臨してきたのは、ほかにはない幅広い品ぞろえや、レベルの高い接客力を提供してきたからだ。例えば、百貨店の1階にある化粧品売り場では、美容部員が肌の診断をしてくれたり、メイクのアドバイスをしてくれたりと、対面販売だからこそできるサービスを展開している。百貨店の強みであるきめ細かい対面販売は、Eコマースにとって越えられない壁だった。
ところがここ数年、Eコマースによる消費者へのアプローチが大きく変わってきた。スタートトゥデイが運営するアパレル品通販サイト「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」では、各商品を独自に採寸してメーカー間の微妙なサイズ差を克服したほか、ブランドのショップスタッフが最新のコーディネートを提案してくれる。靴・アパレルを手掛ける通販サイト「ロコンド(LOCONDO.jp)」や、アマゾン傘下の靴・バッグ専門サイト「ジャバリ(javari)」では返品に送料無料で応じており、アパレル通販のネックとされていた「試着しなければわからない」という消費者の不安を軽減している。
また、NTTコミュニケーションズは、スマートフォンで撮影した顔の画像から、シミやしわのチェックができるアプリ「美肌ログプラス」を開発。ユーザーが撮影した顔写真を同社システムで解析し、お勧めの化粧品を紹介したり、個人の肌に合ったケア方法をアドバイスする。現在500人のモニターの肌データを解析し、16社のメーカーが提供する化粧品の中からそれぞれの肌に合った化粧品サンプルを送ることも検討している。今後、ユーザーのデータが増えてくれば、これまで百貨店が化粧品売り場で行っていたサービスを自宅にいながらにして受けられるようになる。
米国では2011年にEコマースの売上高と百貨店の売上高が逆転し、小売業界の構造が変わりつつある。日本のEコマースは現在、非対面でも消費者が満足して買い物できる仕組みを構築している最中。従来と変わらない対面販売だけでは、百貨店の衰退は加速しかねない。