iPadは「iBooks」のみアップデート
10時を回ったところで、米アップルCEO、スティーブ・ジョブズ氏が壇上に上がり基調講演が始まった。
1分を越える盛大な拍手とスタンディングオベーションで迎えられたジョブズだが、冒頭の声は、ややしわがれた老人の声に聞こえてならなかった。ここ10年近く通い続けた身としては、2年ぶりのジョブズの加齢を思わずにいられなかった。しかし、講演が始まると次第にはつらつとした、いつもの姿に戻っていった。
まずはiPadについて、10ヵ国で 200万台を販売し、7月末までには9ヵ国増やして19ヵ国に展開することを述べた。
しかし、iPadについてはあまりトピックはない。今回発表された新機能も、電子書籍アプリ「iBooks」に加わった2つの機能のみ。1つ目は、書籍に対してブックマークやコメント、選択範囲のテキストに色線を付けるというマーキングの機能。もう1つはPDFのサポートだ。
PDFのサポートでは大きな拍手があった。iPadで扱える電子書籍フォーマット「ePub」のデータが整いつつあるとはいえ、星の数ほどある紙の書籍に比べればまだまだ少ない。すでに存在するPDFを手軽に扱えることは、iBooksの本棚に書籍を増やす手っ取り早い方法だろう。
App Storeの審査について強調
続けて、iPad、iPhone、iPod touchの開発環境として2つのプラットホームを説明した。
1つはオンラインで提供されるHTML5アプリケーション。これはiPhone登場当時から強調されていたものだ。iPadに搭載された「A4」チップは高速だが、所詮は1GHzのARMプロセッサのカスタマイズ品で、メモリー空間も限られている。デュアルコア、クアッドコアというIntel CPUに、数GBというメモリーを搭載したMacと真っ向から勝負して、性能でかなうはずがない。
iPhoneやiPadといったデバイスは、あくまで使いやすいユーザーインターフェースと個人用データの格納を担い、業務処理は豊富なコンピューティングリソースを持つクラウドに配置するという HTML5アプリケーションの考え方は間違っていない。
一方、それでは満足できない人向けに用意しているのが、アップルのアプリ配信サービス「App Store」だ。端末にインストールして使うアプリを開発し、App Storeを通して配布、販売できる。
代表例としてNetflixのレンタルDVDアプリ、Zyngaの牧場経営ゲーム、ActiVisionの音楽ゲームをデモしていた。
ゲーム機や「iモード」のように開発者が限られておらず、趣味レベルも含めた大勢が低コストでアプリを作って提供できるがゆえに、この市場の競争は激しい。簡単には利益にならないかもしれないが、それでもその先には確かに成功が待っている、アメリカンドリームを具現化した市場だということを強調していた。
もう1つ、何かと話題になっているApp Storeの審査についても言及した。
ジョブズは従来の主張の通り、「95%のアプリが7日以内に審査を終わらせている」と繰り返し述べていた。あまりの強調の仕方に「それだけ非難されてるのだろうなぁ」と思われて仕方ないぐらいだ。
また、アプリが却下される3つの理由もこの場で説明していた。1つ目が「説明通りに機能していない」、2つ目が「非公開APIを使っている」、そして3つ目が「クラッシュする」。主にこれらに注意すれば、7日以内に審査が終わり、App Storeに掲載されるだろうというわけだ。実際には、ユーザーインターフェースのガイドラインやポルノか否かという細かい話はあるだろう。
ただし、アップルの審査が極端に独善的なら、そもそも22万ものアプリは集まっていない。規律があるからこそ一般の利用者が信頼した市場が形成されて、14億ドル近い売上をあげ、その7割の10億ドルを開発者に配分することができたといえる。