12月8日、日本生まれの3Dグラフィックソフト“Shade”シリーズがメジャーアップデートを果たしてバージョン9になった。レンダリング速度やインターフェースの大幅な改善をはじめ、今回は昔ながらのユーザーから今後3D CGを始めたい初心者まで、すべてのユーザーに訴求する大型アップデートだという。
そこで、Shadeのユーザーコミュニティーでは“Shadeの神”と呼ばれるスペシャリスト、(株)イーフロンティアの園田浩二氏にその魅力を聞いた。
園田浩二氏
1957年福岡県に生まれる。1989年にShadeと出会い、3Dグラフィッククリエーターとして広告/ゲーム/アニメーション分野などで活躍。もともとShadeを開発していたエクス・ツールス(株)制作部部長を経て、2003年、Shadeの営業権譲渡とともに(株)イーフロンティアに入社。現在はShadeのエバンジェリスト活動とともに、社内のShadeスタジオの設立に奔走する
“Shade”シリーズは、ターゲット層別に3つのラインアップをそろえている。標準パッケージの『Standard』を中心に、大判印刷や台数無制限の分散レンダリング、多彩なエフェクトや入出力を備えたハイエンドの『Professional』、エフェクターやアニメーション関連の特殊機能を絞りながらも3Dグラフィックの醍醐味を味わえる入門版『Basic』。予算と使い道を考えて、最適なパッケージをチョイスしよう
(株)イーフロンティア 03-3347-1126
Shade 9 Basic 1万6800円(通常版)、1万2800円(グラフィックソフトユーザー優待版)、8500円(アカデミック版) | Shade 9 Standard 4万5000円(通常版)、2万4800円(アカデミック版) | Shade 9 Professional 10万5000円(通常版)、4万9800円(アカデミック版) |
[編集部]
編集部Shade 9のポイントはどこにあるのでしょう?
[園田氏]
そうですね、今回の目玉はユーザーの利用目的によって2つの方向性に分かれると思います。
Shadeは古くからのベテランユーザーの方も多いのですが、そのほとんどがプロフェッショナルユーザーです。その人たちにとっては、レンダリングスピードが非常に高速になっているので、それがいちばんよろこばれると思いますね。機能的にはもう既存バージョンで満足されていることもあり、基本の基本であるレンダリングがより速く、より美しくなることが訴求ポイントです。
“レイトレーシング”を使ったレンダリングでは空間分割の最適化が進んで、従来の2倍ほど速くなっています。それ以外にも“パストレーシング”で“イラディアンス・キャッシュ”という手法を導入したのですが、イメージによっては8~10倍という劇的なスピードアップを果たしました。
Shadeは古くからのベテランユーザーの方も多いのですが、そのほとんどがプロフェッショナルユーザーです。その人たちにとっては、レンダリングスピードが非常に高速になっているので、それがいちばんよろこばれると思いますね。機能的にはもう既存バージョンで満足されていることもあり、基本の基本であるレンダリングがより速く、より美しくなることが訴求ポイントです。
“レイトレーシング”を使ったレンダリングでは空間分割の最適化が進んで、従来の2倍ほど速くなっています。それ以外にも“パストレーシング”で“イラディアンス・キャッシュ”という手法を導入したのですが、イメージによっては8~10倍という劇的なスピードアップを果たしました。
[編集部]
いきなり10倍とは、いったいどんなマジックを使ったんですか?
[園田氏]
実は、イラディアンス・キャッシュの搭載はいつでもできたんですよ。ただ、“簡単きれい”というShadeのコンセプトとそぐわない部分もあったんです。
3Dグラフィックというのは通常、レンダリングを高品質にするためにどんどんオプションを追加していきます。もちろん、オプションを付けるとそのぶん遅くなる。
Shadeは静止画の利用がメインでしたし、標準でフルオプションを付けてとにかく“簡単きれい”を追求していました。速くレンダリングを終えたいならオプションを外してくださいというスタンスですね。だから、“簡単きれい”を犠牲にしてまで速さを追求するのはどうかと……。
イラディアンス・キャッシュは諸刃の剣なんです。これによって速くはなるのですが、高周波ノイズが消えすぎて眠い画像になってしまう。悪いところもわかっていたので、安易に搭載するのだけはやめようと考えていました。
3Dグラフィックというのは通常、レンダリングを高品質にするためにどんどんオプションを追加していきます。もちろん、オプションを付けるとそのぶん遅くなる。
Shadeは静止画の利用がメインでしたし、標準でフルオプションを付けてとにかく“簡単きれい”を追求していました。速くレンダリングを終えたいならオプションを外してくださいというスタンスですね。だから、“簡単きれい”を犠牲にしてまで速さを追求するのはどうかと……。
イラディアンス・キャッシュは諸刃の剣なんです。これによって速くはなるのですが、高周波ノイズが消えすぎて眠い画像になってしまう。悪いところもわかっていたので、安易に搭載するのだけはやめようと考えていました。
[編集部]
何か事情が変わった、と。
[園田氏]
時代の要求ですか。Shadeのレンダリングクオリティーと要する時間の理屈がわかっているユーザーは問題ありません。でも、その違いや理由がわかならないユーザーは“ヨーイ、ドン!”で3Dグラフィックソフト同士のレンダリング速度を比べて“Shadeは何でこんなに遅いの?”と誤解してしまう。
今回の実装方法からいうと、制作検討のときはレンダリング時間を省くように使い、最終レンダリングのみでイラディアンス・キャッシュを弱めにしてクオリティーを高めるという使い方ができます。
今回の実装方法からいうと、制作検討のときはレンダリング時間を省くように使い、最終レンダリングのみでイラディアンス・キャッシュを弱めにしてクオリティーを高めるという使い方ができます。
[編集部]
なるほど。ところで、もうひとつの方向性とは何でしょう。
[園田氏]
もう一方は、これからShadeを始めるエントリー層、つまり若い人向けのアニメーションやエフェクトの強化です。ホビーユーザーさんだとキャラクター制作のニーズが強いので、髪の毛を生やす“ヘアサロン”であったり、煙を発生させる“パーティクルフィジクス”であったり……。
以前も“マリモ”という機能でファー(毛)を表現できたんですが、バージョン9ではあえて外しています。コンセプトは、使って楽しいヘアスタイル機能。例えばマリモでネコを描こうと思ったら、あらゆる方向の“ガイドヘア”を作る必要があり、それだけで1カ月くらいかかるんです。楽しむ前に苦しみのほうが……。ヘアサロンは柔軟性ではマリモに劣りますが、使い勝手は抜群。美容師さんのようにクシをあててドライヤーで整えて、切ったりカールさせたり、感覚的に使えますよ。
パーティクルフィジクスもそうです。従来Shadeでも同様の表現はできましたし、ほかの3Dグラフィックソフトでも煙を発生させる機能を備えたものもあります。ただ、トライしてみてもできないユーザーが多いんです。それだけ難しい。だからShade 9では、煙の発生源を作るだけで、とりあえず表現できるようにした。あとはバージョンを上げるたびに機能を正常進化させていけば、もっといい機能、いいソフトになっていくでしょう。
以前も“マリモ”という機能でファー(毛)を表現できたんですが、バージョン9ではあえて外しています。コンセプトは、使って楽しいヘアスタイル機能。例えばマリモでネコを描こうと思ったら、あらゆる方向の“ガイドヘア”を作る必要があり、それだけで1カ月くらいかかるんです。楽しむ前に苦しみのほうが……。ヘアサロンは柔軟性ではマリモに劣りますが、使い勝手は抜群。美容師さんのようにクシをあててドライヤーで整えて、切ったりカールさせたり、感覚的に使えますよ。
パーティクルフィジクスもそうです。従来Shadeでも同様の表現はできましたし、ほかの3Dグラフィックソフトでも煙を発生させる機能を備えたものもあります。ただ、トライしてみてもできないユーザーが多いんです。それだけ難しい。だからShade 9では、煙の発生源を作るだけで、とりあえず表現できるようにした。あとはバージョンを上げるたびに機能を正常進化させていけば、もっといい機能、いいソフトになっていくでしょう。
[編集部]
バージョンが上がるたびに、どんどん複雑になりそうです。
[園田氏]
当然、バランスが大切だと考えています。以前からShadeは“箸のようなソフト”と言われていて、ユーザーが望むことは工夫次第でたいていできるんです。
例えばパーティクルフィジクスのアニメーションもリアルにやろうと思ったら流体力学にのっとったシミュレーションをしなくてはなりませんが、スーパーコンピューターでやるような演算を本当にコンシューマーのマシンで実行させるのか、と。Shadeのパーティクルフィジクスは一見流体のようですが、実は剛体の応用にすぎません。マシンパワーが追いついてきたら、そのとき対応すればいい。もちろん、開発は続けますしね。
例えばパーティクルフィジクスのアニメーションもリアルにやろうと思ったら流体力学にのっとったシミュレーションをしなくてはなりませんが、スーパーコンピューターでやるような演算を本当にコンシューマーのマシンで実行させるのか、と。Shadeのパーティクルフィジクスは一見流体のようですが、実は剛体の応用にすぎません。マシンパワーが追いついてきたら、そのとき対応すればいい。もちろん、開発は続けますしね。
[編集部]
アニメーションの話が多いですが、ニーズが強いのでしょうか。
[園田氏]
古くらからのユーザーは“アニメ機能なんていらない”と言っている方もいますが、若いユーザーは、3Dグラフィックはやっぱり動かなくては! と思うようですよ。
Shadeのプロモーションムービーをご覧になりましたか? あれは、あるユーザーがひとりで作った作品なんです。しかも、Shadeを触りだしてたったの1年で、数分のフル3Dグラフィックアニメを実際に作ってしまった。Shadeでアニメがちゃんと作れるかどうか、これ以上の証明はないでしょう。彼にはバージョン8.5/9のパッケージも描いてもらっているのですが、8.5のときはShadeを使い始めて半年でしたね。好きこそ物の上手なれ、です。
Shadeのプロモーションムービーをご覧になりましたか? あれは、あるユーザーがひとりで作った作品なんです。しかも、Shadeを触りだしてたったの1年で、数分のフル3Dグラフィックアニメを実際に作ってしまった。Shadeでアニメがちゃんと作れるかどうか、これ以上の証明はないでしょう。彼にはバージョン8.5/9のパッケージも描いてもらっているのですが、8.5のときはShadeを使い始めて半年でしたね。好きこそ物の上手なれ、です。
[編集部]
Shadeはほかのソフトに比べて書籍も充実していますし、学ぶ環境が整っていますよね。
[園田氏]
まあ、20年の歴史がありますから。Shadeでは、ノウハウを持っているベテランユーザーが若いユーザーにそれを開放していく、いいコミュニティーが成立しています。ベテランユーザーはもう、みなさんいい大人ですからね。
[編集部]
20年も開発が続くと、もうやり残したことはないのでは?
[園田氏]
とんでもない。この世界、数年おきにテクノロジーの波がやってきます。PowerPCの波も、Mac OS Xの波も、インテルMacの波も、タイムリーに製品を出し続けています。それに、3Dグラフィックではマシンのスペックが上がるとできることがまだまだ増えていくんです。先ほどの流体力学のシミュレーションもそう。今後も進化していきますというか、もうShadeをやめることはできませんよ。
そう、ユーザーがShadeを使っている面白い理由のひとつに、“Shadeはなくならないから使う”っていうのがありました。
そう、ユーザーがShadeを使っている面白い理由のひとつに、“Shadeはなくならないから使う”っていうのがありました。
[編集部]
Mac版もずっと開発し続けて欲しいものですね!
[園田氏]
もちろんです。MacユーザーはShadeシリーズ全体では10%程度ですが、『Professional』に限るとこれが30~40%になります。チーフエンジニアの時枝敏也がMac好きということもありますが、今後もメジャーOSについてはサポートを続けます。私もMacユーザーなのでなくなったら困っちゃいますね。
[編集部]
最後に、読者に向けてコメントをお願いします。
[園田氏]
Shadeは3Dオペレーターのものでなく、絵を描きたい人が道具として使って欲しいソフトなんです。ベジェ感覚で使えるスプラインモデラーなので、『Adobe Illustrator』のように曲線を引けます。ユーザーには何より、3Dグラフィックを楽しんで欲しいですね。
『Basic』なら1万円程度で買える。使い込んでダメならほかのソフトに乗り換えればいい。最初からハイエンドにいくのではなくて、まずは3Dグラフィックの窓口としてShadeに触ってみてください。
『Basic』なら1万円程度で買える。使い込んでダメならほかのソフトに乗り換えればいい。最初からハイエンドにいくのではなくて、まずは3Dグラフィックの窓口としてShadeに触ってみてください。
提供/イーフロンティア