月刊アスキー 2008年2月号掲載記事
京都議定書は先進国に対して温暖化ガスの排出削減を求める国際的な取り決めで、日本は1990年度を基準にして2008年度~2012年度までの5年間の平均(第一約束期間)で炭酸ガス換算では6%の温暖化ガス排出削減が求められている。しかし、現状では目標数値の11億8600万トンに対して13.8%もの温暖化ガス排出削減を実施しなければならない。
その京都議定書の第一約束期間が2008年1月から始まる(日本は年度ベースで4月から開始)。環境省の速報値では2006年度は、13億4100万トンと2年ぶりに温暖化ガスの総排出量(二酸化炭素換算)が前年度比1.3%減少した。しかし、これは暖冬による灯油消費量の減少や、ガソリン価格の上昇で自動車の走行距離が短くなったという一時的な要因に過ぎず、日本は第一約束期間の開始を待たずして、京都議定書の目標達成が危ぶまれている。
欧州諸国では既に、温暖化ガスの排出総量の上限(キャップ)を国や企業ごとに定め、達成できない場合には排出権を取引(トレード)する「キャップ&トレード方式」が進められている。一方、日本の産業界は、キャップ&トレード方式や、温暖化ガスの排出削減効果が期待される「環境税」の導入は、日本企業の国際競争力を低下させる恐れがある、と反対している。日本経団連は、政府による規制を避けるために産業界による自主行動計画を打ち出しているが、これは2つの問題を抱えている。
第一に、自主行動計画で温暖化ガスの排出削減を実行できるのは資金・技術的に余裕のある大企業に限定されること。資金・技術的に余裕のない中小企業では、目標すら立てられないのが実情だ。第二に、自主行動計画で掲げられた目標の多くは「生産量1単位当たりのエネルギー消費量を削減する」というエネルギー効率向上目標であり、温暖化ガスの絶対量削減目標ではないことである。京都議定書で定められた目標はあくまでも温暖化ガスの絶対量削減である。仮に、1生産単位当たりのエネルギー効率を向上させても、石油火力発電などの増加によって温暖化ガスの排出総量が大きくなれば何の意味もない。
さらに深刻なのは、企業・公共部門以外で、温暖化ガスの排出が規制されていないことだ。たとえば、二酸化炭素の部門別の排出割合を見ると、家庭関連だけで約20%、これに運輸部門を合わせると約34%を占めることになる。しかし、「京都」という名を冠した国際的条約を議長国の日本が達成できないことなど国際信義上許されるはずもなく、京都議定書の目標達成が不可能であることが明確になる2010年頃に、日本国内では温暖化ガス排出削減への議論が本格化するだろう。それこそ、京都議定書目標達成のために発展途上国から排出権を買い漁り排出権価格を高騰させるか、1週間に1度は自動車の運転を規制したり、エアコンのスイッチを切るという非常事態が発生する可能性が高いのである。