「たてもの」と「まち」のイノベーション第22回

我々はどう生きるか。これからも問い続ける|第3回「明日の危機」レポート

首都災害、意外な新事実 清水建設、データ分析で明らかに

文●アスキー

提供: 清水建設株式会社

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可視化されたデータをもとに避難計画を考える

── 先ほど話に出てきた「マチミル」というのはどんなサービスなんですか?

土田 開発計画部が提供している都市情報ソリューションサービスです。都市情報を地図に重ねて分析することで、様々なまちの担い手が進める“まちづくり”の役に立つのではということでスタートしています。交通流を分析する「パブリック・アセット・シミュレーション(PAS)」という分析システムをベースに、人やものの流れから地域の課題・特性を見出すことが主眼になっています。

清水建設株式会社 開発計画部 都市情報ソリューショングループ 土田冴恵子氏

大村 まちづくりは一者だけが言い続けていてもダメで、民間企業、住民、学識、行政など、みんながまちの課題や特性を共有するところからスタートするものと考えます。そこでデータを分析してビジュアル化して見せることが、議論のネタになる。その議論から新しい目標を見つけていくことを目指しています。

── 今回の「明日の危機」ではどんな分析を?

土田 初めは電車での広域避難を分析しました。江東5区における水害時広域避難計画では、災害発生の24時間前になると道路は要支援者や救援のために使われるので、原則は徒歩か電車で移動してくださいというのが行政指針になっています。では「電車で広域避難するというのはどういうことなのか?」ということをデータから調べました。

── どうなっていたんですか。

土田 まず鉄道網と荒川の浸水区域を重ねてみたんですが、そこで見えたのは鉄道での広域避難で活用できる路線は限られているということでした。

── 逆に言えば、広域避難ができない路線もあるんですか。

土田 水害時には「浸水のおそれがない千葉・埼玉・茨城・神奈川・東京西部方面へ広域避難すること」というのが行政指針です。しかし、江東区から埼玉方面に延びている鉄道はほとんどが荒川流域になっていて、直通運転では浸水域の外に避難するのが難しいという状態でした。東側の千葉方面、西側の神奈川・東京西部方面には直通運転している路線が複数あるので、それに乗って避難が可能だとわかりました。さらに今度は江戸川流域も同時に浸水したらというと、千葉方面で浸水域外に出られる路線は減ります。また、茨城方面には直通運転している鉄道路線がそもそもない。そういうことが見えてきました。

── なるほど。

土田 次に、地下鉄8号線(有楽町線)延伸による影響を分析しました。地下鉄8号線延伸は、鉄道空白地帯の利便性向上などを中心にこれまで言及されていましたが、防災面にも寄与することを示しました。たとえば、門前仲町や越中島周辺は徒歩圏内でアクセスできる駅が多く、広域避難できる方面数も多いのですが、城東エリアは避難しにくい。特に西大島の南側は逃げられる方向が少なく、かつ滞在人数が多い場所でした。しかしそこに新しく千石駅ができることで広域避難の可能性が増える。鉄道を使った避難がしやすくなる、ということがわかってきました。

── 興味深いですね。

土田 続いて、避難行動要支援者を対象にしたバスを使った臨海部への事前避難の前提条件整理をしました。まず4万3000人いるとされる深川・城東エリアの要支援者の居住地の分布を分析。そしてその居住地から最寄りの避難所や避難場所に行く経路などを分析しました。大規模な公園などの避難場所は指定数が少ないため、結構歩く必要があることがわかったのですが、「要支援者の方は歩けるのか」という話もあります。では、避難所を集合場所にすればよいかというと、今度はすべての避難所を同時に開設するのは難しい。そのため順番としてどの避難所から開設していくべきかを検討する必要があるわけです。このようなデータ分析がそうした議論のスタート地点になるのではないかと思っています。

── コンビニの出店計画みたいなものですね。

土田 似ていますね。居住地から避難所まで最短経路で向かった場合どのルートに集中するかを分析しています。どこに誘導の人を配置するかとか、「避難場所はこちら」というサインをどこに設置するかを検討する参考になればと考えています。また今回は浸水域を一律で分析しましたが、想定浸水深や、戸建て・集合住宅等の階数によっても避難が必要かどうかが変わってくるので、今後はその辺りでもう一歩踏み込んだ分析ができると思っています。

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