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「(笑)」はどうなんだと思ったんです:

「きのこたけのこ戦争」 公式の態度にガッカリした理由

2023年09月29日 12時00分更新

文● モーダル小嶋 編集●ASCII

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きのこの山とたけのこの里

ネットの鉄板ネタ

 アスキーグルメのモーダル小嶋です。みなさんは「きのこの山」「たけのこの里」のどちらがお好きでしょうか。いわゆる「きのこたけのこ戦争」の話題です。

 「どちらがおいしいのか」という論争は、1980年代から(きのこの山は1975年、たけのこの里は1979年発売)あるにはあったようです。そこからネット文化の普及などにともない、ある種の“お約束”として、自陣のボースティング(自分がすごいということを他者に誇示する行為)と相手をdisる流れが加速していったように思います。

きのこの山

「きのこの山」。1975年デビュー。「アポロ」の製造ラインを有効活用できないかというアイデアから生まれたそうです

たけのこの里

「たけのこの里」。1979年デビュー。2021年7月、この菓子の形状が立体商標として登録されたとか

 それを受けて、2001年には、明治が積極的に流れに便乗した「きのこ・たけのこ総選挙」キャンペーンを実施しています。ネットを中心に消費者が騒いでいるのですから、企業としても乗らない手はないというのはうなずけるところ。

 かくいう自分も、かつては、たけのこの里派でした(現在、嫌いになったとか、そういうことではないです)。「きのこの“山”とたけのこの“里”、里と比較すれば文化レベルの違いは明らか。山は早く開発されたほうがいい」「きのこの山のイニシャルは『KY』。空気を読めない存在、名は体を表すとはよく言ったもの」などと挑発を繰り返していたものです。

 一方で、きのこの山陣営からも「たけのこの里とかいう名前からしてローカルなスナックには負けない」「これがボクシングならばありえない、チョコのウェイトに差がありすぎる」などの反撃を受けていましたっけ……。双方、言いがかりもいいところですが。

同じ会社の商品だし、所詮はお菓子だし

きのこの山とたけのこの里

※こちらの写真は「きのこたけのこ戦争」というネーミングにあわせて上下を決めただけであり、「きのこの山が上というヒエラルキーを示している」「明治の売上をたけのこの里が下支えしている構図を表現している」などの意図はありません

 もっとも、きのこたけのこ戦争は、あくまでネットミームとしての争い。自分は、きのこの山とたけのこの里の対決を、ある意味「本気で争っても実害がない」ものであるからこそ、逆にバチバチな戦いを繰り広げられるのだろうと思っていました。

 たとえば、ASCII.jpで扱われるジャンルでいえば、「インテル対AMD」「Android対iPhone」などといった争いもネットではときどき見られます。しかし、どこを比較するかで話は変わりますし、なかなか結論は出ないものでしょう。また、愛情が深い人たちが言い争うと、ちょっとシャレにならないレベルになってしまうこともある。

 古くから、「政治」「宗教」「野球」はビジネスの話題ではタブーとされてきました。こういった、生活に深く根ざしているものに関しては、言い争うとただ事ではなくなってしまうことも珍しくありません。まあ、現在ではそのような風潮もだいぶ薄れましたが。

 その点、きのこの山とたけのこの里は同じ会社の商品ですし、良くも悪くも「所詮は、お菓子」。お互いが「そういうもの」とわかっているからこそ、思う存分戦える娯楽になっている……と思っていたのです。

「悔しい思いをしているのではないでしょうか(笑)」

 2016年のことでした。明治が、同年より国民の祝日として施行される8月11日の「山の日」に合わせ、きのこの山の記念日として同じく8月11日を「きのこの山の日」として申請し、認定されたのです。

 それ自体は、別によいのです。このニュースを知った時点では、たけのこ派として「記念日制定という後付けの栄光にすがらないとたけのこの里に太刀打ちできないとは」などと笑ったのですから。相変わらず、言いがかりもいいところですが。

きのこの山の日

「きのこの山の日」に認定された際の広報画像

 問題は、その際のリリースです。当時のリリース文は明治の公式にはもう掲載されていないものの、当時、筆者が書いた記事がありますので、そこから開発担当者のコメントを抜粋します。

きのこの山開発担当者「きのこの山の日には山の日という絶好の日取りが突如誕生しましたが、『たけのこの里』には、現状、記念日に制定できそうな日はなさそうですね。悔しい思いをしているのではないでしょうか(笑)」

たけのこの里開発担当者「今年(※編注:2016年)春先に『チョコだけのこの里』『クッキーだけのこの里』という社内外にて大変話題となった仕掛けが作れたので、正直勝った! と思っていました……。イベントも開催するとのことで、どこかでたけのこの里も紛れ込ませてやろうかと画策します(笑)」

 ……これを見たとき、ちょっと驚きました。というか、リアルで声が出ました。「か、かっこわらい〜?」と。

 そう、「悔しい思いをしているのではないでしょうか(笑)」「どこかでたけのこの里も紛れ込ませてやろうかと画策します(笑)」というノリを見たとき、自分はガッカリしたのです。

「公式はそこで笑っちゃうんだ」と思った

 きのこたけのこ戦争という消費者側から発生したムーブメントに関して、公式がノータッチでいてほしかったということではないんです。さすがに、「きのこの山とたけのこの里、どっちが好き?」みたいなキャンペーンなどはやってしかるべきでしょう。企業の戦略としては当たり前です。

きのこの山とたけのこの里

食べきりサイズの小袋にして各6袋ずつアソートした「きのこの山とたけのこの里 12袋入り」もあります。筆者の友人たちはこれを「和平パック」「呉越同舟パック」と呼んでいました

 しかし、プレスリリースで、開発担当者が「(笑)」を付けて煽り合っている状況を見るに至って、自分は醒めてしまったのですよね。

 公式から「さあ、楽しんで戦ってください(笑)。ぼくたちも戦ってます(笑)」と告げられたような……。あ、公式はそこで笑っちゃうんだ、みたいな……。そういうノリでやっているのね、と。明治に、「きのこたけのこ戦争、盛り上がってますよね(笑)」と言われた感じがしたのです。あれです、「みんなで『バルス』とツイートしましょう」と放送する側に言われたような感じというか。

 公式が煽るのはいい。でも、ネットを中心に繰り広げられているそれって、双方の陣営が「(笑)」を付けるようなテンションでやっているものだったのでしょうか。先述したように、「所詮は、お菓子」だと言われれば、その通りなのですが……。

きのこの山

きのこの山の売上は、皮肉なことに「きのこ・たけのこ総選挙」キャンペーンで回復したそうです

たけのこの里

マーケティング調査の結果によると、たけのこの里は若年層に受けがよいのだとか

 自社の商品同士を対決させる、というのはよくある話です。「醤油と塩、どっち?」とか、「ホットとアイス、どっち?」とか。その際、公式はどういう態度でそれを“煽る”べきか。

 前述のように、2001年には「きのこ・たけのこ総選挙」キャンペーンが実施されました。そこできのこの山の売上が上がったという面もあるそうです。くどいようですが、話題になる(売上に繋がる)わけですから、食品メーカーが「みなさん、好きな側を応援してください」というポーズを取るのは自然でしょう。

 ただ、(「所詮は、お菓子」であるからこそ)“戦争”と言われるぐらいのバチバチのところに、公式が「(笑)」を使うのはなあ……とガッカリしてしまったんですよね。それとも、自分が、きのこたけのこ戦争に本気のポーズを取りすぎていたのか……。みなさんはどうでしょうか。

 筆者は、今では「たけのこの里が好みだけど、きのこの山もおいしいよね」ぐらいの考えを持っているに過ぎません。自分の中では、戦争は2016年に終わったのです。

モーダル小嶋

モーダル小嶋

1986年生まれ。「アスキーグルメ」担当だが、それ以外も担当することがそれなりにある。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。よろしくお願いします。

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