「IBMともHPともAmazonとも組まない。HPCを運用出来るクラウドコンピューティング専門企業と協業する」と述べたのはアンシス本社のHPCストラテジーディレクター、バーバラ・ハッチングス氏。アンシスは、構造解析、流体解析、電磁界、回路システム解析などCAE(ComputerAidedEngineering:コンピュータ支援設計)分野のソフトウェアソリューションで世界的なトップ企業だ。
CAEでは、CPUの高速化とマルチコア化による分散処理の性能向上などを背景に、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)による高精度なシミュレーションへのニーズが高まっている。ソフトウェアの開発技法も進化しており、従来は約1500コアで性能が頭打ちになってしまう流体シミュレーションが、同社の最新の試作版ソフトウェアでは約4000コアまで性能がコア数に比例して高めることが可能になった。
ベンダーに依存しない独自戦略
だが、同社のソフトウェアライセンスはコア数で算出される。従来のライセンスではコア数に比例して料金まで高くなってしまうのだ。そこでアンシスは、利用時間に応じて料金が決まるクラウド型の価格体系「ユーセージベースライセンス」を準備しているという。
ただし、「クラウド」で想定しているのはAWS(アマゾンのクラウドコンピューティングサービス)などのパブリッククラウドではない。過去の検証では、膨大なデータを処理するシミュレーション用途では、物理マシンのリソースを予約できないパブリッククラウドは一定の性能が確保できず、アンシスが考えるデータの安全性にも一部懸念があったため、採用を断念したというのだ。
将来、状況が変わればアマゾンとの協業もあり得るとしながら、「当面はソリューションの中核部分をアンシスが提供し、クラウドの実行環境やデータ管理、顧客とのやりとりといった業務をサードパーティが受け持ち、ベンダーに依存しない戦略」を続けるという。
SFAやCRM、アクセス解析などの営業支援及びマーケティングだけではなくワークステーションやクラスターのCPUをフル活用するような設計工程のシミュレーションでもクラウド化の波は確実に押し寄せているようだ。