形状、装着の仕方としてはヘッドホンだが、従来的な意味でのヘッドホンとは明らかに異なる。ソニーが「パーソナルフィールドスピーカーシステム」と銘打つ「PFR-V1」は、従来のヘッドホンの枠に当てはまらない、新ジャンルの製品だ(関連記事)。
なにしろ、耳を覆ったり耳に乗せたりするパッド/ハウジングが存在しない。耳の斜め前方あたりに球形のスピーカーユニットが置かれるだけなのである。
「ニアフィールドリスニング」の発想
発想としては、イヤホン/ヘッドホンよりも、小型スピーカーを用いた「ニアフィールドリスニング」に近いと思われる。
ニアフィールドリスニングとは、小型スピーカーを自分から近距離に配置して聴くというリスニングスタイル。箱庭的な空間になりがちなどといった弱点はあるものの、小音量で楽しめる、部屋の反射条件等の影響を受けにくくなる、周囲の騒音があまり気にならなくなる、などのメリットを持つ。
つまりPFR-V1はヘッドホンの形状を借用して、「超小型スピーカーを近距離に設置する、理想的なニアフィールドシステムを実現したもの」と解釈できるのだ。
ソニーによれば、「スピーカーユニットを耳介(じかい)の斜め前方に配置。直接音に加えて耳介から反射した音も外耳道に届くため、目の前で演奏しているかのような迫力を体感できます」とのこと。
「外界の音が外耳に反射して内耳に導かれる」という、人間の聴覚にとって必然のプロセスとその過程による音の微妙な変化を失わないため、スピーカー再生のように(ニアフィールドリスニングのように)自然な聞こえ方を得られるということであろう。
パイプで低域を直接耳に届ける
もちろん、この単純とも言えるアイディアを、実際に高音質で実現するために、さまざまな技術が投入されている。最も特徴的なのは「エクステンデッドバスレフダクト」という構造だ。
耳の斜め前方に浮いているように見えるユニットから、「にゅっ」と伸びているアーム部分にこの構造を採用。アームの先には孔が空いており、PFR-V1で唯一、内耳に直接音を届ける機構になっている。
シンプルな超ニアフィールドシステムだけでは、低域の再現性を確保できなかったということなのだろうか。パイプになっているアーム部分を通して、低音を内耳に直接送り込むことで、音のバランスを取っているようだ。